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「お望みでしたら、なんなりと」
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しおりを挟む「こいつが……マジ重いんだよ!」
「うわっ!ホントだ!」
「わっ、お前!離すなって!」
「ぎ、ギリ持ってるよ!」
「ちょっとムリムリムリ!」
「いったん置こ!いったん!ね!あ、わわっ、お、おち……」
「え!ちょ、ま……」
びたん!
「……」
「……」
今度は顔からいった。ロープで縛ってなければ、(危険を察知して目覚めたりして)主任もまだ手が出せたかもしれないけど、無防備に顔からいった。
すぐに、顔の周りの床へ、血が流れだしてくる。
ロープで拘束された男……。
流れ出る血……。
ファンファンファン……。
遠く響くパトカーのサイレン。
「清水、逃げるぞ!」
チビ朔は私の腕を引いた。
「え、でも主任……」
「ここにいたらマズイだろ!早く逃げよう!あいつのことはもう忘れろ!」
「え!主任死んだの!?」
腕を引かれながら、私は主任を振り返る。
主任は血だらけの顔を上げてこちらを見ていた。その目は見開かれ、まばたきもないまま、無言でこちらを見ていた。
「ぎゅわああ!」
思わず持っていたスマホを投げ出し、その場に尻もちをついてドアまで後ずさる。(ちなみにスマホは主任の頭に直撃した)
「え!なに!なんだよ!どうしたしみ……のわっ!!」
チビ朔も飛び上がって驚いた。
「た、祟りだ!ロープ様の祟りだ!ロープ様は死人を操れるんだ!」
「どうしよう、次は私たちを狙ってくるよ!」
血が流れる口で、主任はうめき声のように言った。
「しえこ、さま……」
そして骨のない生き物みたいに、にゅるりと器用に体をくねらせ、ずるずるとこちらへ這い出してくる。
それはまるで、テレビから出てくるあの有名な幽霊を再現したようだった。
「ほらほらほらほらほらあ!!」
「は、はわわわわわわ……!!」
あまりの恐ろしさに、私は限界までドアへ擦り寄る。チビ朔もキャーキャー言ってドアノブをガチャガチャしながら、でも焦りすぎて開くまでに至らない。
「し、絵子、さま……」
しかしもう一度私を呼んで、主任の血まみれの顔はフローリングへ落ちていった。
静けさがやってくる。ちょっとしてから、私は呼んだ。
「主任……?」
返事の代わりに、にわかに荒い息遣いが聞こえてきた。
チビ朔と顔を見合わせ、私はおそるおそる主任へ近寄り、額に手を当ててみた。
「あっつ!」
すかさず手を引っ込める。
「熱い……?てことは生きてんだな……?」
「でもやばいよ!こんなに血だらけで!」
「とりあえず起こそう!ベッドまで引きずろう!引きずるくらいならできるだろ、なっ?」
今にも泣き出しそうな私に、チビ朔は慌てて提案する。
私たちは主任の大きな身体を引きずり、寝室まで運ぶことに成功した。ソファーから勝手に降りてきてたので、引きずるのはそんなに難しくない。
「どうやってベッドに上げよう……」
「持ち上げるのはやめといた方がいいしな」
ベッドの高さを前に、私とチビ朔はロープで縛られたままの主任を見下ろして悩んだ。
そうしたところ、主任の体がくの字に動いた。そしてバネのようにピヨンと飛び上がり、勝手にベッドへダイブして行った。
私とチビ朔は顔を見合せる。
「……あれだ、寝相だ」
「……そうだね。意外と寝相悪いんだ」
そうでなければ、あれだけの高熱で血を流しているにも関わらず、こんなアクロバティックな動きをできるはずがない。
私たちはまず血を拭いて、主任を病人らしい装いに整えてから体温を測ってみた。
ピピピピ、ピピピピ
「40.2度……」
表示された数字をうっそうと呟く。
「どうしよどうしよ!たしか40度超えたら死んじゃうんだよね!?」
「ちげーから!とにかく熱を冷ますぞ!」
「そ、そうだね!」
私たちはダッシュで冷蔵庫へいき、氷と水をしこたまボウルに入れ、タオルを取って戻った。
氷水にタオルを浸し、汗ばんだ額に乗せる。
「大丈夫かな……これくらいで治るのかな……」
「そうだ!たしか、わきとか膝裏冷やすといいんだよ!」
「そうなの?」
「なんかの番組で観たんだよ。血管がいっぱい通ってるとこを冷やすと熱が下がるって!」
「タオルいっぱい持ってくる!」
「保冷剤もな!」
「ガッテン!」
私たちは濡らしたタオルや保冷剤を、主任のわきや膝裏に挟んでいった。縛ったままなのを忘れていたので、ロープもはずした。
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