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「頑張ったでしょう?」
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しおりを挟む私は勢いよく顔を上げる。
なに?なんなの?家のカメラ問題もまだ解決できてないのに、実はGPSみたいなもんまで仕込まれてんの?
私はその場に座り、主任の後頭部を見下ろした。
「主任、本当に熱は大丈夫なんですか?ちょっと、おでこ触ってみていいですか?」
けっこうヒドイんではないだろうか。顔色もよくなかったし、呼吸も荒い。高熱のときって、それはそれはしんどくって身体が石になっちゃったんじゃないかって思うくらい重くって、あらゆる関節が軋み、暑いのに寒いという最悪の状態になるものだ。
「めっそうもありません!このように汗ばんだ額に触れるなど!詩絵子様の小さき可愛らしい手が汚れます!」
地面に額をつけたまま、主任は叫ぶ。
「まあ、そんなに言うなら触らないですけど」
「!!さすが詩絵子様!実は密かに期待していた駄犬の下心など見破っておられたのですね!?」
「あんたが触るなって言うからでしょうがっ!」
しかし高熱の病人を、いつまでもこんなところで土下座させておくわけにはいかない。私は主任の腕を引っ張った。
「主任、立てます?たぶん、私じゃ主任サイズは支えきれないと思うんですけ……ん?」
主任は私に抵抗するように、床にはいつくばる力をこめた。
「あ、あの主任……?本当に肺炎になりますよ?」
「すみません、お気遣いは嬉しいのですが……もう少し……このままで」
私は静かに主任から手を離し、音を立てないように倉庫の窓際まで後ずさりした。そこが最も主任と距離を取れる場所だった。
「引かないでください」
「!!」
だから、なんであんたはなんでも見えてんの!?
「いや……やっぱり引いてください」
「!!!!」
「実は、あまり顔を見て話せないことがありまして」
主任はぼそぼそと床の上で喋る。なんだ、そういうことか。でもだからって、土下座のまま話すこともそうそうないと思うけど。
ん?主任が顔を見て言えない話?
「な、なんですか?」
色々と考えてみたけれど、そのような話に思い当たるものがなかった。仕事のことなら職場で言うだろうし、ドギツイドエム願望とかでも、この人は素直に言うし。
な、なになになに!未知すぎて気になるじゃないのよ!
「こんなことを言っては、詩絵子様の交友関係に支障をきたしてしまうかもしれませんが……」
ごくり。私は固いつばを飲んだ。
「…………やはり、止めておきます」
「…………」
~~~~~っくぅううう!!
蹴りたい!超けりたい!!でもこいつを喜ばせることだけは……!!
私は両手の拳を胸の前で握り、なんとか蹴りたい衝動を押さえ込んだ。
「主任!気になるじゃないですか!すぱーっと言っちゃってくださいよ!」
「……しかし」
ああもうじれったい!
「教えてくれないと、凄まじい蹴りをぶち込みますよ!?」
「!……………………………………………………」
こいつ…!素早く黙秘しやがった!!そりゃそうか!
「う、うそですうそです!主任が話してくれないなら、あのピンヒールで踏んづけることは、未来永劫ないかなあーなんて……」
自分でもなんてことを言ってるんだろうと思った。でも主任には有効な手段のはずだ。
「分かりました。お話します」
「……早いですね」
「先日、突然現れた小さき彼のことなのですが」
小さき彼……チビ朔?
あー……そういえばあいつ、俺の女とか言ってたから……。
「い、いや主任、違うんですよ?あいつはそういうんじゃなくって……」
「詩絵子様、彼のことは殴るんですね」
「…………」
………あー…そうきたか。
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