ドМ彼氏。

秋月 みろく

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「頑張ったでしょう?」

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「のわっ!?なななななにやってんのよ美里!ちょっとちょっと!いいい医務室!医務室行ってきます!!」



 一挙にてんぱってしまい、私は美里の怪我と、その辺の人間を交互に見ながら、美里を立たせた。



「どうしたの!?痛い!?痛いよね、うわ~見てるだけで鳥肌たっちゃう……」


「騒がしいわねえ~」



 必要以上に間延びした声が、私と美里の行く手を阻んだ。やはり扇子を顔に当てて、柊さんはその上から冷ややかな目でこちらを見下ろした。



「怪我!大怪我ですよこれはっ!見てくださいぱっくりこんな!」


「もう仕事は始まってるのよ?それくらいの怪我、大したことないでしょう?」


「でもでも!血がこん…」


「ほら、テープでも貼っときなさいな」



 そばのデスクにあったセロハンテープを、美里のデスクへだん!と大きな音を立てておく。


「ほら、これ」


 と柊さんはセロハンテープを顎でさす。


 ぶちん!私の中で、なにかが切れる。



「こんのオバ」


「あ、私たぶん絆創膏持ってますから。大丈夫です」



 後ろから私の口を抑え、美里は軽く笑って答えた。


 ええっ……?ダメだって美里!このオバハンはどんどん調子に乗っちゃうよ!



「それなら最初から騒がないでちょうだい。そうまでして殿方の注目を集めたいのかしら?」



 このオバハン……!美里が主任と付き合ってると思ってやってるんだ!



「はは……そんな……」



 空笑いを漏らすばかりの美里に、柊さんは更に言った。



「もしかしてあなた、その怪我も自分でやったんじゃなくて?」



 ぶちぶちん!切れた、何本か切れた。いじめ…!これはいじめっ!


 しかし、美里は私を抑える手にぐっと力をこめて、頭を下げた。



「お騒がせして、すみませんでした」



 そんなことがあり、退社の時間になって辺りから人がいなくなるまで、仕事もせんと私はぼんやりと口を空けていた。


 ……謝った。なんにも悪くないのに、美里は頭を下げた。あの怒りっぽい美里が…。電子ケトルのごとくすぐに沸騰する美里が……謝った。


 すごい…。私には出来ない。あれが社会人の鑑。うまく社会を渡っていくために、感情を殺して、一番手っ取り早い方法を選択した。


 なんで?美里……あんたって、そんなに偉いやつだったの?尊敬するよ。それにしても、主任と付き合ってるだけで、まさかあそこまでいびられるなんて。



「……」


 あれ?
 美里が主任と付き合ってるんだっけ?

 あれれ?
 これってそもそも、私のせいじゃない?



「美里!ごめん!」



 その事実に気がつき、私はその場に土下座した。主任ほど土下座のスペシャリストではないけれど、謝罪の気持ちをこめた土下座だ。


「本当にごめん!私が名乗り出なかったからだ!それなのに私ったら、勘違いしてくれてた方が楽なんて……とんでもありませんでした!今からあのオバハンに名乗り出てくるよ!」



 一気にまくし立てて、勢い良く顔をあげる。



「………あれ?」


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