ドМ彼氏。

秋月 みろく

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「ドエムの住むところにロープあり」

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 当然まったく力を入れていなかったチビ朔は、ぽかんとして目が点になる。


 ……なんでかなあ。嫌な予感しかしないよ。



「ま、まあ。じゃあ縛……」


「や、やめろ!!くっ!くそっ!」



 チビ朔がなんとか気を取り直してロープを巻きつけようとしたところ、ロープのほうが勝手に主任へと巻きついていく。


 なにを言っているか分からないと思うが、私にもさっぱり分からん。


 これもどんな手品を使ったかは不明だが、チビ朔に抵抗するように動き回る主任の身体が、くるくるとロープを巻き取っていき、なぜだかYシャツのボタンが弾け、ロープの端はするりとチビ朔の手から落ちていき、最終的には床に両膝をついてギチギチに拘束された主任の姿が出来上がっていた。



「はあ……はあ……くッ!」


「……」


「……」

 

 お前……今どうやって縛った……?



(な、なに……?今なにが起こったの!?)


(し、しらないしらない……俺なんにもやってない!)


(生きてたよ!ロープが生きてたよ!)


(ああ、魂が宿っておられるよ!)



 私とチビ朔は顔を見合わせ、パクパクと口を動かしてテレパシーで会話する。この時、私たちの心はしっかりと一つに固まっていた。



(チビ朔なんとかしてよ!あのロープ自分じゃ解けそうもないじゃん!)


(や、やだよ、俺がロープ様に祟られちゃうだろ!巻き付かれちゃうよ!)


(ロープに触らないようにすればいいじゃないの!)


(無茶いうなよ!)



 テレパシーで素早く話し合った結果、とりあえずロープには触らないよう、チビ朔が声をかけてみることに決まった。



「ぁ、あのさ、俺もいきなりでちょっと悪かったよ」



 チビ朔は相手を刺激せぬよう、笑顔で主任の前に屈みこんだ。



「だからさ、なんていうの?あんたもとりあえずそのロープほどいてさ、冷静に話し合おうぜ?」



 ぽん。とロープには当たらないよう、肩に手を乗せただけだった。



「ぐうっ!」



 主任は後ろへと吹っ飛び、そこにあったダイニングの椅子を背中で倒しながら荒々しく着地する。


 がしゃんどすん!


 激しい轟音が家中に響いていく。壊れた椅子の破片から「はあはあ」言って主任は這い出してくる。肩の部分のシャツが、なぜかダイレクトに裂けている。


 チビ朔はまたもや目を点にして、自分の右手を見下ろした。


 それから振り返る。


 今……、どうやって飛んだ……?



(と、飛んだよ!あいつ勝手に吹っ飛んだよ!)


(椅子壊れたよ!あんたが力入れすぎたんじゃないの!?そう言ってよ!)


(ないない!俺女の子のおっぱいに触るくらい優しく触れたよ!ちょうソフトタッチだよ!)


(なんで服まで破れてんの!?)


(知んない知んない!なんで触れてもないのに口から血ィ流れてんの!?)


(きょわいよきょわいよ!)


(きっとそのうち勝手に死ぬんだよ!そんで俺たち殺人犯になるんだよ!)



 私たちは狼狽して口を空まわりさせるばかりだった。そんな私に、ずるずると這い出してきた瀕死の主任が叫んだ。



「さあ!詩絵子様今です!ピンヒールで僕にトドメをッ!!」


「……」


「……」



 おかしいじゃん……!


 その流れはとんでもなくおかしいじゃん!せめて知らない男が彼女を奪いに来たっていう設定は守り通そうよ!


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