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「ドエムの住むところにロープあり」
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しおりを挟む「もしお前が、彼氏と別れたら……」
ぽん。
エレベーターの扉が開いた。チビ朔は振り返る。
「その時は、俺の女にしてやるよ」
すでにエレベーターに乗りこんでいた私は、おそらくキメ顔をしているであろうチビ朔の後ろ姿を見送り、エレベーターの扉を閉じた。
連れて来てもらっといて置いてけぼりは悪かったかなあ。まあいっか。チビ朔だし。このエレベーター、もう最上階まで行けるようになってるし。
上昇していくエレベーターの中で、フー、と息を吐く。
あいつは女と見ると口説きたくなっちゃうんだなあ。ホストは天職なんだろう。しかし一体どんな思考回路をしているんだろう?
なぜあんなむず痒くなる言葉をぽんぽん吐き捨てられるのか。大事にせなにゃらんよ。言葉には魂が宿るって、ばっちゃんが言ってたぞ。
それはそうと、エレベーターの回数表示は徐々に上がっていき、ついに主任のいる最上階へと停まった。
部屋の暗証番号は、前にしつこくメールで送られてきたから(不本意ではあるけれど)記憶に刷り込まれている。
ふっふっふ。
思いがけない侵入者を前に、やつはどんな顔をするだろう?
主任とこれからも交際を続けていくか、考えないといけないところではあるが、今はやつの私生活を暴くことに集中しよう。
果たして―――……最上階へと続くエレベーターの扉は開かれた。
「はあ、はあ、はあ……はあ」
「…………」
扉の向こうには、肩を激しく上下させるチビ朔の姿があった。私は思わず目が点になる。
「や、やあ。テレポートできるようになったんだっけ?」
「はあ、はあ……階段!のぼってきた!!」
両膝に手をついて荒っぽく答える。
ひょえーー…ここ20階だよ……?
なぜエレベーターが降りてくるのを待たなかったのか。どうしても先回りしてやりたかったの?
「はあ、はあ……ああー!お前まじムカツク!なんだよ!?」
息が整うのを待たずに、チビ朔は叫ぶ。私はなんとか笑ってみせた。
「いや……あはは!悪気はあったんだけどさ!まさか階段でくるとは思わなくって、はは」
チビ朔はキッ、と顔を上げてこちらを睨んだ。
「くっそー、お前ぜってー落としてやるからな!」
「……」
うわ~どこから突き落とされるんだろう……。なんて、冗談言ってる場合じゃない。
あ。
気づいちゃった。こいつの名前『Shiozaki Saku』でイニシャルS・Sなんだ。
まあ、これはわりとどうでもいいか。
「ほら行くぞ」
チビ朔はポケットに手を突っ込んで、踵を返してすたすたと歩きだす。
「え、なになに、どこいくの?」
「俺の部屋。お前を俺に惚れさせる作戦第一、これからお前を抱いて」
「出たな外道ーーーーッ!!」
「ブヒッ!!!」
美里なみにキレのあるアッパーが炸裂し、チビ朔はとある部屋のドアにダイブしていった。
「やっっっぱりクズ!あんたはクズ!作戦第一からしてホントクズ!!!だいたいこの流れでほいほいついてくかあ!」
「う、うるせー!!いつもはもっとムードづくりとかちゃんとしてるよ!」
「知るかボケエ!!」
息荒く言い終えたところで、私はその事実に気がついた。
「ちょ、ちょっとちょっと、あんたがダイブしてった部屋」
「ダイブさせられたんだけどな」
「いいから、そこ、そこ主任の部屋だから!」
「え、マジ?」
チビ朔は立ち上がり、「近所どころかお隣さんじゃん」としばし部屋の扉を眺めた。最上階にもいくつか部屋があるが、たまたまチビ朔の隣の部屋が主任らしい。
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