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転校生
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翌朝。
俺はいつもかけてあるスマホのアラームで目が覚めた。窓から朝日がさし、ちょうど俺の身体にあたって気持ちがいい。
今日は学校の日だ。夏休みまであと少しということで、学校自体はサボらず頑張って行っている。
俺は、その気持ちよさで二度寝しそうな身体にムチを打ち、立ち上がり、ベッドの上ですやすやと眠る寝子を見やる。
「昨日の話·····」
しっかりと覚えているから夢ではないんだろう。昨日の話は当分の間脳裏に焼き付いているはずだ。
だが、その事ばかりを気にして寝子に接するのは良くない。できるだけ気にかけないよう、いつも通りに接するように務めた方が良さそうだ。
俺は両頬を叩くと、寝子を起こしにかかった。
「寝子、起きろ。朝だぞ」
俺が声をかけると、寝子は突然起き上がった。そして俺の方を見てくる。しかし、その目は開いていなくて、閉じたまま俺の顔を捉えていた。すごいなこいつ。
「おい、寝子。これは起きてるのか?」
「⋯⋯ふぁい。起きてましゅ」
うん。完全に起きてないな、これ。
「起きろ~寝子~!」
俺は寝子の両肩を掴み前後に揺さぶる。
最初はそれでも起きなかったが、時間が経つにつれて、だんだんと目が開いてきた。完璧に開いたところで俺は揺さぶるのを止めた。
「おはよう寝子。ゆっくり眠れたかは聞くまでもないよな」
「うん。健のベッドは寝やすくてとても落ち着く」
「そりゃどうも。朝ごはん作るから下こいよ」
俺は適当に返事をし、朝ごはんを作るためにリビングへと向かった。
「寝子、今日も学校だけど、お前はどうするんだ?」
出来上がった朝食を食べながら、俺は正面に座る寝子に訊ねた。
寝子は保健室で過ごしていたため、学校に席というものはない。つまり行くか行かないかは自由ということになる。
だが、ニャーチルさんの言ってた「寝子をこの世界に馴染ませる」ということは、学校に行くということと結構関係があると思う。だから出来れば行ってほしいところだが。
俺がそんなことを考えていると、寝子は昨日の残りの魚をもぐもぐしながら言った。
「健が行くなら私も行く。それで健と一緒にお勉強するの」
「お勉強って、そう言ってもな⋯⋯」
寝子の席は俺のクラスには無いし、いったいどうしたら⋯⋯。
そのとき、俺のスマホがテーブルの上で震えた。
確認すると、あかりちゃんからのメールだった。
俺とあかりちゃんは仲が良く、本当は生徒と先生がメール等をするのは禁止なのだが、こっそりとやっているのだ。
メールにはこう書かれていた。
『起きてるか不良少年。寝子との生活はどうだ? 変なことしてないだろうな。
さて、今日は寝子を学校に連れてくか迷っているだろうが、連れてきてくれ。ちょっとしたサプライズがあるんだ。というわけだ。不良少年も学校はサボらず来るんだぞ』
「俺の心の中結構読んでんなあの人⋯⋯」
そんなことを呟きながら俺は了承の返事を送る。
これで寝子の学校の件はあかりちゃんがなんとかしてくれるだろうから一件落着だが⋯⋯。
サプライズってなんだろう。俺になんかくれるのかな。まぁサプライズっていうくらいだから期待しておこう。
「寝子、そろそろ学校行く支度を済ませとけよ」
俺の家から学校までは数十分はかかる。それを考慮すると、今から支度すればちょうどいい時間に学校に着ける。
俺が言うと、寝子はこくりと頷いた。
「健は今日も保健室でおサボりするの?」
学校までの道を歩きながら黄緑色のパーカーのフードを被った寝子がそんなことを言ってくる。寝子の中でも俺のサボり癖については定着しているようだ。
「多分サボると思うけど、なんでだ?」
「健がおサボりしたら、健と一緒にお話したりできるから」
「なるほどな」
やっぱり寝子はお話するのが好きなんだな。
「あ、そういえば。今日はあかりちゃんからサプライズがあるらしいぞ?」
俺が言うと、寝子は首を傾げた。
「あかりんから、サプライズ?」
「ああ。俺も何かは知らないが、期待しておこうぜ」
「うん!」
そんな話をいくつかしている間に、俺たちは学校に着いた。
外履きから中履きに履き替えて、早速保健室へと向かう。
保健室へと行くと、早速あかりちゃんが出迎えた。
「おお、来たか諸君。寝子、昨日は何かされなかったか?」
あかりちゃんが寝子に聞くと、寝子は少し考えるそぶりを見せ、言った。
「私、気づいたら健の部屋で寝てた」
「なんだと? おい不良少年! あれほど変なことをするなと言ったのに、一日でこれか!」
「ち、違うって! 寝子が勝手に入って来たの!」
その後もなんとか説明して、誤解は解けた。これから変なこと言わないように寝子を監視する必要があるなこれは。
「さて、今日はちょっと寝子に話があるんだ。女同士の会話を盗み聞きされないように、不良少年はさっさと教室へ行くんだ」
「い、言われなくても行くよ」
そうして俺は教室へ向かった。
△▼△
「⋯⋯ふぁぁぁ」
朝の読書の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。俺はチャイムがなると同時にあくびをひとつした。
これからまた退屈な授業が始まる。嫌だな。
俺は朝の挨拶をテキトーにし、席につくなり机に突っ伏した。
「えー、今日は転校生が一人います」
男の担任がそう言う。
転校生か。夏休み直前だってのに珍しいな。誰だろう、女子だといいな。
美少女で俺の隣の空いてる席に座ってきてくれたらずっとその美少女を眺めるという最高の授業が受けられるのに。
いかんいかん。無駄に期待を膨らませると、外れたときのショックが大きい。
それに、俺には橘先輩がいるんだ。他の女に見とれるなんて断じていかん。
俺は机に突っ伏したまま前を向いた。
担任の先生が廊下側に待機しているであろう転校生に、教室へ入るように促す。
すると、転校生がゆっくりと教室へ入ってきた。
そして俺はその転校生を見て愕然とし、開いた口が塞がらなかった。
「自己紹介をどうぞ」
先生がそう言うと、その転校生は頷き、自己紹介をした。
「初めまして。小室寝子っていいます。仲良くしてくれると嬉しい」
転校生の正体は、バーニャ王国王女、寝子様その人だったのだ。猫耳を隠すためしっかりパーカーのフードを被っている。
まさか、あかりちゃんの言ってたサプライズってこれのことか!?
寝子が自己紹介を終えると、教室内は途端に騒がしくなった。
それもそのはず。寝子の外見は誰が見ても口を揃えて美少女と言うほどの美少女だ。
男子は喜びに声を上げ、女子は友達になりたい派と嫉妬派に別れる。
「えーと、じゃあ寝子さんは犬山君の隣の席ね」
担任がそう言うと、寝子と俺の目が合った。
そして寝子は、今朝は背負っていなかったリュックを背負い、嬉しそうな顔で俺の方へと歩いてきて言う。
「健と隣になれるなんて思わなかった。夢が叶ったよ、健!」
その言葉を聞き、この教室にいる全生徒が俺に注目する。
「おいおい、健のやつ、寝子ちゃんと顔見知りっぽいぞ?」
「なんだと!? あの野郎、後で絞めてやる」
「羨ましいぶひいいいいい!!」
などの声が聞こえてくる。やべぇ怖すぎるんだけど。
寝子はそれだけ言い終わると、席にちょこんと座った。
それからしばらくして先生の話が始まる。
「⋯⋯なぁ寝子」
俺は小声で寝子に話しかける。
「なに?」
「⋯⋯俺とお前は今日初めて会ったっていうことにしてくれないか?」
じゃないと俺の身体と精神が持たない。
しかし、寝子は理解していないようで。
「どうして?」
「⋯⋯いいから他人のフリをしてくれ。頼んだぞ」
「うん、健がそう言うならそうする」
分かってくれたみたいでよかった。
それから俺たちは午前の授業を受け続け、やっと受け終えた。俺は寝子に教えながらやっていたため、余計に疲れた。だけど、寝子は物分かりがよく、あまり手を焼かなかった。
昼休みになり皆がバラける中、俺はイスに座ったまま伸びをする。
「どうだ寝子。これが学校の授業ってやつだ」
「うん! すごく楽しい! もっと授業やりたい」
「ははっ、さすがだな寝子は」
「ずいぶんと楽しそうね」
と、俺たちが話をしているとどこからか怒気をはらんだ声が聞こえてくる。
俺はその声の方を見やる。
「ってなんだ桜かよ」
「あんたまた言ったわね!? また桜かよって言ったわね!?」
声の主は、俺のマイメンの一人、日向桜だった。今日もいつもと同じようにギャルのような見た目でいる。
「それで、何の用だ?」
俺が言うと、桜は思い出したように言った。
「健、あんた寝子ちゃんとずいぶんと仲良いじゃない? それに顔見知りみたいだし」
「いや、顔見知りじゃねぇよ。――なぁ寝子?」
俺は眼球運動だけで目を動かし、話を振る。すると、寝子はひとつ頷き言った。
「うん。健とはついこの間会っ――」
俺は慌てて寝子の口を塞ぐ。
こいつ。あれほど言ったのに、普通に口走りやがった。
「なになに、どういうこと?」
「いや、なんでもないぞ。あ、おーい司ー!」
俺は話を逸らすため、ちょうどこちらに向かってこようとしていた司に声をかけた。
桜がいろいろ文句を言っていたが、聞こえないフリをしておこう。
「やぁ寝子ちゃん。可愛いね。しかも、おっぱいも大きいときた。これは僕の僕が爆発すんぜ――」
「「うるせえぇ!」」
俺と桜からドロップキックをくらい、司は派手に吹っ飛んでいった。
司のやつ、無垢な寝子の前でなんてことを言いやがるんだ、変態め!
司は吹っ飛ばされた状態から復帰すると、相変わらずな爽やかな笑顔を見せた。
「冗談冗談。それにしても、健と寝子ちゃんは仲が良いね。それに顔見知りのような発言もあったけど」
まずい。司も疑ってきたか。
「いや、顔見知りでもなんでもないって。今日初めて会ったし、隣で勉強が分からないっていうから教えてただけだよ」
「ふーん」
目を細めて俺を見てくる桜。
⋯⋯こいつの疑いを晴らすにはかなり時間が要りそうだな。
「まぁ健が言うならそうなんだろう。それより学食に行かないか? 腹が減ったよ」
司の言うことにこの場の全員が同意する。
「じゃあ決まりだね」
そうして俺たちは寝子を交え、学食へと向かった。
俺はいつもかけてあるスマホのアラームで目が覚めた。窓から朝日がさし、ちょうど俺の身体にあたって気持ちがいい。
今日は学校の日だ。夏休みまであと少しということで、学校自体はサボらず頑張って行っている。
俺は、その気持ちよさで二度寝しそうな身体にムチを打ち、立ち上がり、ベッドの上ですやすやと眠る寝子を見やる。
「昨日の話·····」
しっかりと覚えているから夢ではないんだろう。昨日の話は当分の間脳裏に焼き付いているはずだ。
だが、その事ばかりを気にして寝子に接するのは良くない。できるだけ気にかけないよう、いつも通りに接するように務めた方が良さそうだ。
俺は両頬を叩くと、寝子を起こしにかかった。
「寝子、起きろ。朝だぞ」
俺が声をかけると、寝子は突然起き上がった。そして俺の方を見てくる。しかし、その目は開いていなくて、閉じたまま俺の顔を捉えていた。すごいなこいつ。
「おい、寝子。これは起きてるのか?」
「⋯⋯ふぁい。起きてましゅ」
うん。完全に起きてないな、これ。
「起きろ~寝子~!」
俺は寝子の両肩を掴み前後に揺さぶる。
最初はそれでも起きなかったが、時間が経つにつれて、だんだんと目が開いてきた。完璧に開いたところで俺は揺さぶるのを止めた。
「おはよう寝子。ゆっくり眠れたかは聞くまでもないよな」
「うん。健のベッドは寝やすくてとても落ち着く」
「そりゃどうも。朝ごはん作るから下こいよ」
俺は適当に返事をし、朝ごはんを作るためにリビングへと向かった。
「寝子、今日も学校だけど、お前はどうするんだ?」
出来上がった朝食を食べながら、俺は正面に座る寝子に訊ねた。
寝子は保健室で過ごしていたため、学校に席というものはない。つまり行くか行かないかは自由ということになる。
だが、ニャーチルさんの言ってた「寝子をこの世界に馴染ませる」ということは、学校に行くということと結構関係があると思う。だから出来れば行ってほしいところだが。
俺がそんなことを考えていると、寝子は昨日の残りの魚をもぐもぐしながら言った。
「健が行くなら私も行く。それで健と一緒にお勉強するの」
「お勉強って、そう言ってもな⋯⋯」
寝子の席は俺のクラスには無いし、いったいどうしたら⋯⋯。
そのとき、俺のスマホがテーブルの上で震えた。
確認すると、あかりちゃんからのメールだった。
俺とあかりちゃんは仲が良く、本当は生徒と先生がメール等をするのは禁止なのだが、こっそりとやっているのだ。
メールにはこう書かれていた。
『起きてるか不良少年。寝子との生活はどうだ? 変なことしてないだろうな。
さて、今日は寝子を学校に連れてくか迷っているだろうが、連れてきてくれ。ちょっとしたサプライズがあるんだ。というわけだ。不良少年も学校はサボらず来るんだぞ』
「俺の心の中結構読んでんなあの人⋯⋯」
そんなことを呟きながら俺は了承の返事を送る。
これで寝子の学校の件はあかりちゃんがなんとかしてくれるだろうから一件落着だが⋯⋯。
サプライズってなんだろう。俺になんかくれるのかな。まぁサプライズっていうくらいだから期待しておこう。
「寝子、そろそろ学校行く支度を済ませとけよ」
俺の家から学校までは数十分はかかる。それを考慮すると、今から支度すればちょうどいい時間に学校に着ける。
俺が言うと、寝子はこくりと頷いた。
「健は今日も保健室でおサボりするの?」
学校までの道を歩きながら黄緑色のパーカーのフードを被った寝子がそんなことを言ってくる。寝子の中でも俺のサボり癖については定着しているようだ。
「多分サボると思うけど、なんでだ?」
「健がおサボりしたら、健と一緒にお話したりできるから」
「なるほどな」
やっぱり寝子はお話するのが好きなんだな。
「あ、そういえば。今日はあかりちゃんからサプライズがあるらしいぞ?」
俺が言うと、寝子は首を傾げた。
「あかりんから、サプライズ?」
「ああ。俺も何かは知らないが、期待しておこうぜ」
「うん!」
そんな話をいくつかしている間に、俺たちは学校に着いた。
外履きから中履きに履き替えて、早速保健室へと向かう。
保健室へと行くと、早速あかりちゃんが出迎えた。
「おお、来たか諸君。寝子、昨日は何かされなかったか?」
あかりちゃんが寝子に聞くと、寝子は少し考えるそぶりを見せ、言った。
「私、気づいたら健の部屋で寝てた」
「なんだと? おい不良少年! あれほど変なことをするなと言ったのに、一日でこれか!」
「ち、違うって! 寝子が勝手に入って来たの!」
その後もなんとか説明して、誤解は解けた。これから変なこと言わないように寝子を監視する必要があるなこれは。
「さて、今日はちょっと寝子に話があるんだ。女同士の会話を盗み聞きされないように、不良少年はさっさと教室へ行くんだ」
「い、言われなくても行くよ」
そうして俺は教室へ向かった。
△▼△
「⋯⋯ふぁぁぁ」
朝の読書の終わりを告げるチャイムが鳴り響く。俺はチャイムがなると同時にあくびをひとつした。
これからまた退屈な授業が始まる。嫌だな。
俺は朝の挨拶をテキトーにし、席につくなり机に突っ伏した。
「えー、今日は転校生が一人います」
男の担任がそう言う。
転校生か。夏休み直前だってのに珍しいな。誰だろう、女子だといいな。
美少女で俺の隣の空いてる席に座ってきてくれたらずっとその美少女を眺めるという最高の授業が受けられるのに。
いかんいかん。無駄に期待を膨らませると、外れたときのショックが大きい。
それに、俺には橘先輩がいるんだ。他の女に見とれるなんて断じていかん。
俺は机に突っ伏したまま前を向いた。
担任の先生が廊下側に待機しているであろう転校生に、教室へ入るように促す。
すると、転校生がゆっくりと教室へ入ってきた。
そして俺はその転校生を見て愕然とし、開いた口が塞がらなかった。
「自己紹介をどうぞ」
先生がそう言うと、その転校生は頷き、自己紹介をした。
「初めまして。小室寝子っていいます。仲良くしてくれると嬉しい」
転校生の正体は、バーニャ王国王女、寝子様その人だったのだ。猫耳を隠すためしっかりパーカーのフードを被っている。
まさか、あかりちゃんの言ってたサプライズってこれのことか!?
寝子が自己紹介を終えると、教室内は途端に騒がしくなった。
それもそのはず。寝子の外見は誰が見ても口を揃えて美少女と言うほどの美少女だ。
男子は喜びに声を上げ、女子は友達になりたい派と嫉妬派に別れる。
「えーと、じゃあ寝子さんは犬山君の隣の席ね」
担任がそう言うと、寝子と俺の目が合った。
そして寝子は、今朝は背負っていなかったリュックを背負い、嬉しそうな顔で俺の方へと歩いてきて言う。
「健と隣になれるなんて思わなかった。夢が叶ったよ、健!」
その言葉を聞き、この教室にいる全生徒が俺に注目する。
「おいおい、健のやつ、寝子ちゃんと顔見知りっぽいぞ?」
「なんだと!? あの野郎、後で絞めてやる」
「羨ましいぶひいいいいい!!」
などの声が聞こえてくる。やべぇ怖すぎるんだけど。
寝子はそれだけ言い終わると、席にちょこんと座った。
それからしばらくして先生の話が始まる。
「⋯⋯なぁ寝子」
俺は小声で寝子に話しかける。
「なに?」
「⋯⋯俺とお前は今日初めて会ったっていうことにしてくれないか?」
じゃないと俺の身体と精神が持たない。
しかし、寝子は理解していないようで。
「どうして?」
「⋯⋯いいから他人のフリをしてくれ。頼んだぞ」
「うん、健がそう言うならそうする」
分かってくれたみたいでよかった。
それから俺たちは午前の授業を受け続け、やっと受け終えた。俺は寝子に教えながらやっていたため、余計に疲れた。だけど、寝子は物分かりがよく、あまり手を焼かなかった。
昼休みになり皆がバラける中、俺はイスに座ったまま伸びをする。
「どうだ寝子。これが学校の授業ってやつだ」
「うん! すごく楽しい! もっと授業やりたい」
「ははっ、さすがだな寝子は」
「ずいぶんと楽しそうね」
と、俺たちが話をしているとどこからか怒気をはらんだ声が聞こえてくる。
俺はその声の方を見やる。
「ってなんだ桜かよ」
「あんたまた言ったわね!? また桜かよって言ったわね!?」
声の主は、俺のマイメンの一人、日向桜だった。今日もいつもと同じようにギャルのような見た目でいる。
「それで、何の用だ?」
俺が言うと、桜は思い出したように言った。
「健、あんた寝子ちゃんとずいぶんと仲良いじゃない? それに顔見知りみたいだし」
「いや、顔見知りじゃねぇよ。――なぁ寝子?」
俺は眼球運動だけで目を動かし、話を振る。すると、寝子はひとつ頷き言った。
「うん。健とはついこの間会っ――」
俺は慌てて寝子の口を塞ぐ。
こいつ。あれほど言ったのに、普通に口走りやがった。
「なになに、どういうこと?」
「いや、なんでもないぞ。あ、おーい司ー!」
俺は話を逸らすため、ちょうどこちらに向かってこようとしていた司に声をかけた。
桜がいろいろ文句を言っていたが、聞こえないフリをしておこう。
「やぁ寝子ちゃん。可愛いね。しかも、おっぱいも大きいときた。これは僕の僕が爆発すんぜ――」
「「うるせえぇ!」」
俺と桜からドロップキックをくらい、司は派手に吹っ飛んでいった。
司のやつ、無垢な寝子の前でなんてことを言いやがるんだ、変態め!
司は吹っ飛ばされた状態から復帰すると、相変わらずな爽やかな笑顔を見せた。
「冗談冗談。それにしても、健と寝子ちゃんは仲が良いね。それに顔見知りのような発言もあったけど」
まずい。司も疑ってきたか。
「いや、顔見知りでもなんでもないって。今日初めて会ったし、隣で勉強が分からないっていうから教えてただけだよ」
「ふーん」
目を細めて俺を見てくる桜。
⋯⋯こいつの疑いを晴らすにはかなり時間が要りそうだな。
「まぁ健が言うならそうなんだろう。それより学食に行かないか? 腹が減ったよ」
司の言うことにこの場の全員が同意する。
「じゃあ決まりだね」
そうして俺たちは寝子を交え、学食へと向かった。
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