光の部屋、花の下で。

三尾

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それから、

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「愛してる」
 唇が離れたところでささやいた。
「俺もだ」とかすれた声が応える。お返しのように今度は響野のほうから腕を伸ばして俺の頬にふれてきた。人影がないのをいいことに、家でするときのようにしっかりと口づけを交わす。
「聖、愛してる」
 まぶたを上げた先には、少し気恥ずかしそうな響野の顔があった。目が合うと、俺の顔のななめ後ろあたりに視線をそらす。照れくささをこらえている黒い目を愛おしいと思う。
 いつのまにか握り合っていた手の下で、俺と響野のスマホが同時に鳴った。見ると、グループチャットに安西からのメッセージが届いている。
『クソヒマで死にそうだ。次はいつやる?』
 先週集まったばかりなのに、もう二回目のオンライン飲み会を所望しているらしい。
「ちょっと前まで音沙汰なかったくせに……」
 あきれて文句を言ったつもりが、響野と目が合った瞬間、どちらからともなく苦笑に変わった。
「死にかけてるんじゃ仕方ないな」
「次の夜勤明けかなあ」
 スマホから顔を上げたとき、遊具広場に入ってこようとしている親子の姿が目に入った。まだマスクをできないよちよち歩きの子供と、その手を引く母親を見て、独占していた藤棚のベンチを立つ。
 車止めの柵の横を通り抜けて公園の敷地の外に出ると、そこはかつての通学路だった。
 色々なものを抱えながら詰襟の学生服を着て歩いた道は、あきれるほど変わっていない。
 川の水が太陽に反射して輝き、その少し上流には、古ぼけた橋と、新緑を繁らせる中学の桜並木が見えた。



〈完〉

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