光の部屋、花の下で。

それから、

6

　和室を出たあとは、ふたりで交互に顔を洗い、朝食を取った。卵をゆで、コーヒーを淹れて、ハムとチーズを乗せたトーストを焼く。
　ダイニングとひと続きになった広い居間や、高原の別荘みたいに緑の多い窓の外の景色にもだいぶ慣れた。自然公園の外周に植わった木々は、この家の中からもよく見える。
　敷地は隣接しているけれど、何箇所かある公園の出入口までは、歩くと少し距離があった。中も広いので、散歩がてらに訪れるにしても一、二時間は歩き回る覚悟が必要だ。
　そんな事情もあって、名古屋から引っ越してからの一年半のあいだ、園内に足を踏み入れる機会はなかった。
　家を出ると、外はゴールデンウィークらしい五月さつき晴れだった。抜けるような空の青に、太陽の光が白くかかっている。
　外出自粛が言われていても、自由に出入りできる公園のような場所は、特に閉鎖されていない。感染防止のために社会的距離ソーシャルディスタンスを取るよう勧告があるだけだ。
　休日の朝の公園もちらほらと人影があった。ほとんどがジョギングや犬の散歩を目的とした人々だ。門をくぐって公園内に入ると、遊歩道沿いに茂る雑木林から緑の匂いが降ってくる。
「中学ぶりにきたな」
　すがすがしい空気の中で、着けていたマスクを下ろし、ついでに伸びもした。
　中学の写生大会やマラソン大会は、ここでやることが多かったから、当時は年に一、二回ほど訪れる場所だった。もっとも、花が咲いているのを見た覚えはない。たぶん、中学生男子の視界には一ミリも入っていなかったんだろう。
「とりあえず、花壇か温室にでも行ってみるか？」
　問われてうなずくと、響野は先導するように分かれ道の一方に足を向ける。