光の部屋、花の下で。

三尾

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それから、

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 庭の一角に面した和室は、外からの物音が極端に少ない場所で、耳鳴りがするほど静かなときがある。この静寂に包まれた空間に響野ともって休日をすごしていると、それだけで、ぴりぴりした世間の空気にあらがっている気分になった。
 外には今日も目に見えない嵐が吹き荒れている。
 パンデミックという嵐が。


 年が明けて間もなく、世界的規模で流行がはじまった新型ウイルスによる感染症は、またたく間に国内へも広がった。
 四月上旬には神奈川を含む七つの都府県に緊急事態が宣言された。
 手洗いとマスクの着用と外出自粛が呼びかけられ、〈生活に不可欠エッセンシャル〉と呼ばれる一部の職業や事業者をのぞいた多くの商業施設や公共施設が、感染の拡大防止を目的に休業を余儀なくされている。
 介護職は、〈エッセンシャル〉な仕事に分類されるということで、俺の職場は休みにはならなかった。もしも施設が閉鎖すれば、入所者を介助する人手がなくなるから、それ自体は順当だ。
 とはいえ、ウイルスが人間側の事情を斟酌しんしゃくすることはないから、それは要するに、感染リスクととなり合わせで働くことを意味した。
 現場の介護スタッフは、緊急配布された感染症対策マニュアルを読み込み、毎日発表される感染者数と死亡者数とクラスターの発生情報に神経を尖らせながら、入所者のケアとサポートをおこなっている。
 感染の拡大とともに世論が悲壮感を高めていっても、俺にできることはたかが知れていた。
 目の前の仕事に集中する。本当にそれだけ。未曾有の疫病が猛威を振るっても、人間は食べて寝て排泄し、身体を清める必要がある。現場に求められるのは、入所者の生活サイクルをできる限り平時と同じように回すことだった。
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