光の部屋、花の下で。

三尾

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それから、

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 藤の花が咲いていた。
 秋が終わり、冬がはじまって、小雪の舞う日を一日か二日ほどすごしたあと、寒さの合間を縫うように大気のゆるむ日が増え、やがて春がきた。
 あわただしい日々を送るうちに、いつのまにか桜は咲き終わっていたらしい。
「今年は花見できなかったな」
 そうつぶやいたら、「花を見たいならとなりの公園で何かは咲いているはずだ」という、情緒的なのかそうでないのか判断に迷う返答がきた。
「行ってみるか?」
「え? うーん」
 和室の天井を見上げて、相手からの提案を吟味する。
 日本で生まれ育った身としては、花見といえばやはり桜で、花なら何でも良いという感じにはならない。
 響野ひびのだって、花見を文字通りの“花を見ること”と捉えているわけではないだろう。
 悔やんでも桜の開花時期をのがした事実は変えようがないから、前向きな代替案を出している。……つもりなのだ、きっと。
「じゃあ行こうかな。今の時期だと何が見頃?」
 俺の質問に「さあ?」と相手は首をかしげる。
「調べてみるか」
「いいよ、ちょっと散歩するだけだし。とりあえず飯にしよう」
 スマホに手を伸ばしかけた響野を止めて布団から身体を起こした。あたりを見回し、脱ぎ捨ててあったTシャツを頭からかぶる。ついでに響野の分も見つけて、うつぶせに寝ている彼の背に落としてやった。
 ふと見た相手のうなじに、ゆうべ俺が付けたキスマークを発見し、「やっぱこれも着て」と襟付きのシャツを渡す。
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