光の部屋、花の下で。

七日目

24

　テレビのＣＭで使われるような、オーソドックスなヒットナンバーも多い。
「俺も同じ曲を聴いてたよ」
　片耳にイヤホンをはめた響野が、ちらりと俺を見た。何か言いたそうな相手の表情の意味がわからず、「うん？」と見返す。
　結局、無言で目を逸らされてしまったので、思わせぶりな視線の意味はわからずじまいだった。
　入院中はベッドですごすもの、という俺のイメージは、このように実際にはだいぶ違っていた。やらなければならないことは意外に多いし、医師や看護師も含めて病室をたずねてくる人々も一定数いた。
　そして、意外な出来事も起きる。
　響野と片方ずつイヤホンをはめて音楽を聴いている最中、彼のスマホにＬＩＮＥのメッセージが届いた。
　送信者を確認した響野は、軽く目を見開き、「マズい。忘れてた」とつぶやく。
「安西あんざいだ」
「安西？」
　響野のものまねでもしているように俺も目を見張った。
　安西とは、あの安西だろうか？　響野が俺に言うのだから、たぶんそうなのだろうけれど。
「昨日の午後くらいに電話をもらったんだ。今、シンガポールから帰ってるらしくて」
「シンガポール？」
「今日、うちにくることになってた」
「今日？」
　意表を突かれすぎて、相手の言葉をただ繰り返していると、タイミングを見はからったように病室のドアがノックされた。引き戸をがらりと開けて看護師が入ってくる。
　相手の用件は、検査結果が出たので診察室へくるように、という呼び出しだった。
　響野の話の続きをもう少し聞きたかったけれど、伝言を終えた看護師は、部屋を出ずにドア付近で待機している。こちらが動くのを待っているらしい。腰を浮かせながら、本当に、ぼんやりする暇など皆無だ、と思った。