光の部屋、花の下で。

三尾

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七日目

21

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「言っておくけど、今日は本当に挨拶くらいしかできないぞ」
「え、“今日は”って?」
「こんな格好だし、手土産も何も用意してない」
「な、何の話だよ?」
 俺の動揺が伝染うつったように、相手はぎゅっと眉間にしわを寄せた。不機嫌そのもの、といった様子だけれど、機嫌を損ねているわけではないと思う。どちらかと言えば、困惑を隠そうとしているときの顔だった。
「そういう意味での“”は日を改めてしたい」
「えっ……いいよ、そんな急に……色々考えはじめなくても……」
 なぜか響野のペースで強引に話が進んでいくので焦る。不快な強引さではなく、むしろ嬉しい気持ちも大きかったけれど、同時に不思議な気分でもあった。
 どうして響野は、迷いなく未来の話ができるのだろう。
 ずっと同じ場所で足踏みしていた俺とは正反対だ。さんざん悩んだつもりが、悩みそのものは一向に解消されなくて、この期におよんで不安も消しきれない。
 十年後、二十年後どころか、来年の自分たちがどうしているかも、俺には見通せていなかった。先の見えない霧の中のような場所を、半分あきらめた気持ちで延々と歩き続けている。未来にはそんな印象しかない。
 響野には霧の向こうが見えているのだろうか。それとも、彼の視界には霧そのものが存在しないのか。ずいぶんあっさり、家族に会いたいと言われた。
 まるで普通の恋人同士みたいだと思う。相手とずっと一緒にいたいと願う、どこにでもいる、当たり前の恋人同士のようだ、と。
「……俺も……」
 言いかけて舌がもつれた。
 俺も挨拶をしたかった。そう言おうとしたけれど、喉がつまってうまく言葉にならない。
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