光の部屋、花の下で。

三尾

文字の大きさ
上 下
339 / 377
七日目

20

しおりを挟む

 水兵達の制圧射撃が始まると、一時的に工作員からの射撃が止んだ。
 もう、今しかないな。
 俺は無我夢中でヘリに向かって走った。
 走りながら銃を撃ちながら、とにかく走った。
 途中、弾が切れた小銃を放り投げ、腰の拳銃を抜いてそのままヘリの中に入り込むと、操縦席で操作中だった工作員の頭めがけて至近距離から数発、拳銃を発射した。
 、、、これほど至近距離で人を撃ったことは、もちろん初めてだった。
 わかってはいたが、これが戦争だ。
 目の前の敵は、操縦桿を握ったまま、血塗れになってもう動く気配が無かった。
 ヘリの下では、先ほどまで銃撃戦を繰り広げていた工作員が、水兵との銃撃に負け、死体になっていた。

 、、、終わったのだ。
 
 ヘリのローターはまだ回ったままだが、制圧し、ヘリを確保したことを水兵に親指を立てて合図すると、向こうから歓声が上がった。

 ぞろぞろと、飛行甲板上に水兵が出てくる。
 、、、え、こんなにいたの?
 おまえ等、少しは手伝えよ、と思いつつ、この単身乗り込んだ陸軍軍曹である俺を、彼らは歓喜で迎え入れてくれた。

「おい、だれか、医務室に運ばれた女性士官がどうなったか知らないか?」

「ああ、彼女は今、緊急手術をしています、案内します」

 甲板上に出る時は、随分混乱したが、案内がいると早いものだ。
 それでも原子力空母の艦内はまるで迷路だ。
 
 敵は倒した、空母も洋上に出ることが出来た。
 これで歴史は、第3次世界大戦を回避出来たのだ。
 あとは、彼女の怪我だけが心配だ。

 医務室に到着すると、既に手術は終わっていた。
 軍医が言うには、命に別状はないとのことであったが、出血があるため、もう少し療養が必要となるだろうとのことだった。

 ああ、もう気が抜けた。
 
 彼女が助かる。
 俺の命の恩人だ。
 そう、彼女は俺にとって、特別な存在なのだ。
 知り合って何日とか、そう言う時間の問題ではない、俺のせいで、こんな大けがをしてしまったのだから、俺は彼女の一生に対して、責任を追わなくてはならないな。
 
「、、、、ああ、雄介様、ご無事で」

 彼女が目を覚ました。
 手術に麻酔を使っていなかったらしく、彼女は酷く辛そうにしていた。
 
「まったく、君は無茶をする、、、申し訳ない、まさか君をこれほど危険な目に合わせるとは思っていなかった。」

「雄介様、ここは?」

「安心したまえ、ここは原子力空母の艦内だ」

 すると、彼女の顔は、見る見る蒼白となっていった。

「どうした?何か不安でもあるのか?」

「雄介様、そのままお耳をおかしください、この空母は、もうだめです、脱出のご準備を」

「何を言っている、この艦の工作員は全て排除した、安心してくれ」

「いえ、そうではありません。マーシャンからの通信が入っています。艦内の工作員は、恐らく排除仕切れていません」

 マジか?まだ潜入しているのか?
 どうする?脱出ったって、ここ、原子力空母だぞ。
 無事に沖合に出れれば、こちらの勝ちと思っていたのに、クソ!
 
「おい、だれか、話を聞いてくれ、艦内にまだ、武装工作員が潜入している可能性がある、調査を、、、」

 そう言い終える前に、空母が大きく動揺した。
 もの凄い音の爆発が、艦内深部から伝わって来た。

「なんだ、どこからだ?」

「機関部から、爆発音」

 艦内スピーカーから、爆発音が機関室の方であることが流れてきた。
 、、、ん?機関部?
 おいおい、それって原子炉じゃん。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

冴えないおじさんが雌になっちゃうお話。

丸井まー(旧:まー)
BL
馴染みの居酒屋で冴えないおじさんが雌オチしちゃうお話。 イケメン青年×オッサン。 リクエストをくださった棗様に捧げます! 【リクエスト】冴えないおじさんリーマンの雌オチ。 楽しいリクエストをありがとうございました! ※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

お酒に酔って、うっかり幼馴染に告白したら

夏芽玉
BL
タイトルそのまんまのお話です。 テーマは『二行で結合』。三行目からずっとインしてます。 Twitterのお題で『お酒に酔ってうっかり告白しちゃった片想いくんの小説を書いて下さい』と出たので、勢いで書きました。 執着攻め(19大学生)×鈍感受け(20大学生)

花婿候補は冴えないαでした

いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

処理中です...