光の部屋、花の下で。

七日目

18

「それでな、自分が村八分だったから言うわけじゃないが、自分てめえの身内の話を、他人からあれこれ聞かされるのは気分が悪いもんだよ。内容がどうこう以前の問題だ。何かこう、ルール違反っていうか、マナー違反っていうか……」
　相手の言わんとしていることは理解できたので、「うん」とうなずく。
「本人と話せるなら、俺はそっちのほうがしっくりくる。話すか話さないかってことも含めて、そいつが決めることだしな。本来はそういうもんだ」
　おやじがひどく慎重に言葉を選んでいるのを感じた。言葉を選びすぎているせいで、一見して意味をつかめないほど抽象的になっていた。
　でも、やっぱり言いたいことはわかった。
「話さないのもありなの？」
「当たり前だろ」
　彼はだるまのようなへの字口になる。
「花音も同じ意見だよ。あいつも、色々言われてきたからな。身内のことで」
　聞いた瞬間、こたつから足を引き抜いて立ち上がった。
「おい、ひー坊」
「髪を乾かしてくるだけだよ」
　緊張した視線をよこしてくるおやじを見返して、また話し合いの場に帰ってくることを約束する。
　洗面所でゆっくりとドライヤーを使って戻ると、こたつの上にはふたり分の緑茶が用意されていた。


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　あのとき、もしもおやじの再婚相手が花音さんでなかったら。あるいは「話すのも話さないのも自由だ」と言われなかったら、自分はカミングアウトをしていたかどうかわからない。
　俺にはノアさんのように、言わなければ死んでいたという切実さもなければ、桂けいのように、一生隠し通していくという覚悟もなかった。
　おやじに黙っていることが後ろめたくなるときも、何も告げないほうが良いと思えるときも両方あった。