光の部屋、花の下で。

七日目

13

　正確に言えば、驚きのピークは、今この瞬間ではなかった。それは花音さんとおやじも同じだろう。
「会ってほしい人がいるから帰ってこれないか？」とおやじが連絡してきたのは、専門学校が冬休みに入る直前だった、課題とバイトと介護福祉士の試験勉強に折り合いをつけて、年が明けてしばらく経った今日、三人だけの顔合わせの場を設けた。
　メールや電話で打ち合わせをする中で、おやじの相手が花音さん――ノアさんのお姉さんだと知ったときは、さすがに絶句したけれど、知った以上はその部分に衝撃はない。紹介された相手を見て、ほんとに花音さんだ、と事実確認をするだけだった。
「何つーか……世間は狭いよな」
「狭いのはこの町じゃない？」
　おやじの感慨深げなつぶやきを花音さんが軽く混ぜ返す。
　どういう反応を返せば良いかわからなくて、あえて無表情を保った。場を和ませようとしているふたりの気遣いを感じる一方で、胸にはずっと不安がくすぶっていた。
　花音さんと初めて言葉を交わしたのは高校生のときだ。ノアさんの家で、彼と行為の最中だったところを見られるという、できればなかったことにしたい不本意な初対面だった。
　当時の花音さんは、確か東京で働いていて、自分の母親が入院した知らせを聞いて帰省した。それがどういう経緯でこの町に戻り、おやじと交際するようになったのかは、まだ詳しく聞けていない。
　ただ、今はめぐり合わせの妙に感じ入るよりも、彼女が俺とノアさんの関係をどう捉えているかのほうが気になっていた。
　もっとあからさまに言ってしまえば、俺の性的指向を知っている花音さんが、どのような言葉でおやじにそれを伝えたのか、あるいは伝えていないのかを知りたかった。