光の部屋、花の下で。

三尾

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七日目

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 ふと、響野が口を開いた。
「……生きててくれて良かった」
 目に浮かんでいる強い感情とは裏腹のささやくような声だった。LINEの文章と同じく言葉も最低限だ。
 もっと説明を付け足したほうが良いのに、と思うときもあるけれど、それ以上の言葉がいらないほど、はっきり気持ちが伝わってくるときもある。
 今は後者だった。
 まともに視線を合わせていられなくなって、顔を下に向け、さらに横へと逸らす。
「ごめんな」
「何で水元があやまるんだよ」
「心配をかけたから」
 こみ上げてきたものが喉をふさいで、その先は続かなかった。声が通っていくはずの気管が内側から締めつけられたようにひりひりと痛む。
 テレビで見た脱線事故のニュースを思い出した。
 死傷者は全員分の氏名が明らかになっていて、その中に六十代くらいの女性はいなかった。
 お互いに名乗り合ったわけではないから、その事実だけでは、彼女の無事を確信するには不十分かもしれない。
 でも、少なくとも最悪の事態には陥っていないはずだ。それがわかっただけでも良かった。
 声は思うように出てこないのに、目からは今にもこぼれ落ちそうなものがあって、こらえきれずに両手で顔を覆う。
「こんなのはひどいよな」
 つぶやいたとたん、椅子から腰を浮かした響野に抱きしめられた。
 当たり前に続いていくはずだった日常が何の前ぶれもなく奪われる。
 不変なもの、確実なもの、当然そこに待っているはずの未来。そんな風に約束されたものは何一つないと嘲笑うみたいに。
 響野はこれを体験したのだ。
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