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六日目
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介護士を目指そうと思った理由。
祖母の介護をしていたとき、ヘルパーさんにお世話になったから。
それに、人の役に立つ仕事をしたいと思ったから。
専門学校の願書にも就活の履歴書にもそう書いたし、面接でもさんざん同じことをしゃべった。
自分でも行儀の良すぎる回答だと思ったけれど、だからといって嘘をついたわけでもなかった。
ひとりの人間に良い面と悪い面があるように、その人間が進路を選ぶときにも、様々なプラスの理由やマイナスの動機があると思う。
面接担当者に告げることはなくても、俺自身は、きらきらした志望動機の裏側に、三和土で転んだばあちゃんと蒼白な顔のヘルパーがいることを知っている。
……あのとき、きちんと支えられていれば、入院することもなかった。
それは、彼女の寿命を伸ばしただろうか?
介護士を目指したのは、決して後悔や自責の念だけが理由ではない。ただ、その理由も完全にゼロではない。
自分を責めるな、とおやじは言うけれど、そんなふうに禁じた感情は、なかったものとしていつか消えてくれるのだろうか。
「責めないのは無理だよ」と、今の俺だったらおやじに応える。
母親が消えたとき。ばあちゃんが亡くなったとき。後悔が建設的なものを産まないとわかっていても、忘れられない感情はある。
ただ、「いつまでも苦しまないでほしい」と願う人が自分のそばにいてくれる。
その事実がなぐさめになることも、今の俺は知っている。
祖母の介護をしていたとき、ヘルパーさんにお世話になったから。
それに、人の役に立つ仕事をしたいと思ったから。
専門学校の願書にも就活の履歴書にもそう書いたし、面接でもさんざん同じことをしゃべった。
自分でも行儀の良すぎる回答だと思ったけれど、だからといって嘘をついたわけでもなかった。
ひとりの人間に良い面と悪い面があるように、その人間が進路を選ぶときにも、様々なプラスの理由やマイナスの動機があると思う。
面接担当者に告げることはなくても、俺自身は、きらきらした志望動機の裏側に、三和土で転んだばあちゃんと蒼白な顔のヘルパーがいることを知っている。
……あのとき、きちんと支えられていれば、入院することもなかった。
それは、彼女の寿命を伸ばしただろうか?
介護士を目指したのは、決して後悔や自責の念だけが理由ではない。ただ、その理由も完全にゼロではない。
自分を責めるな、とおやじは言うけれど、そんなふうに禁じた感情は、なかったものとしていつか消えてくれるのだろうか。
「責めないのは無理だよ」と、今の俺だったらおやじに応える。
母親が消えたとき。ばあちゃんが亡くなったとき。後悔が建設的なものを産まないとわかっていても、忘れられない感情はある。
ただ、「いつまでも苦しまないでほしい」と願う人が自分のそばにいてくれる。
その事実がなぐさめになることも、今の俺は知っている。
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