光の部屋、花の下で。

六日目

27

　行きずりの相手に、しかも当事者に打ち明けるような話ではないのに、魔が差したとしか言いようがない。
「あら、まあ」
　深刻さと怪訝さを足して二で割ったような女性のつぶやきを聞いて、失言の自覚が強まる。
　今のは聞かなかったことに、と取り消すのは、さすがに不自然だろうか。何とか穏当に続けられそうな言葉を探そうと視線を動かす。
「あの、でも、医療機関にはかかってるんですが……ただ、見えないと食事や着替えが困るだろうと思って……俺はこういう仕事をしてるので、ここ何日か、相手をサポートしていて」
　早口の説明をしたあと、少しも穏当に続けられている感じがしなくて、ダメだなと肩を落とした。
「それは大変でしたねえ。あなたも……そのお相手の方も」
　見ず知らずの他人から突然、込み入った事情を聞かされた女性のほうは、サングラスをかけた顔を困惑気味に上下させる。
「そうですね……」
　相づちを打つ自分の声も、気まずさのせいで自然と低くなった。
「すみません、こんな話を。ホームであなたを見かけたとき、彼を思い出しました。もしも自分の知っている人だったら、転落の危険がある場所にひとりで立たせておきたくないと思ったんです」
「そうでしたか。お相手は男性なのね」
「あ……はい」
　何気ない相手の指摘に耳が熱くなる。そんな自分が嫌になって、今度こそよけいなことは言うまいと心に誓った。
「先ほど、“何か失礼があったら”と心配されていましたけれど、じゃあそちらも彼のことですか？」
「……ええと……」
　早くも誓いが危うくなるのを感じながら言いよどむ。