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六日目
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しばらく前から、突発的に視力が戻る瞬間はあった、と響野は説明した。すぐにぼやけてしまうので、治っているという確信も持てなくて誰にも話せなかった。
「目には治ってほしいとずっと思ってた。でも、視力が一度戻ってぼやけていくとき、何て言うか……ほっとしたんだ」
まるで、言いにくいことを交代で告白するゲームにでも参加しているみたいに、今度は響野が打ち明け話をはじめる。
「家にまだ家族の気配が残ってて、夢にも出てくるし、今もそのへんにいるみたいに思える。そうでないことはわかってるよ。だけど、そうでないってことをはっきりさせたくもない」
弱さをさらけだした言葉に胸を突かれた。どう応えようか迷って、「そうか」と相づちを打つ。
「おかしいと思うか?」
響野が不安そうに聞いてくる。かすかに揺れる声に、スマホを握る手に力がこもった。
「おかしくないよ。うちのばあちゃんも、葬式のあと、しばらく家にいる感じがした」
火葬されて肉体がなくなったとしても、それだけで死者が消えるようなことはない。もういない人間の記憶を持っているのは、この世でまだ生きている人間のほうだ。生者が忘れない限り、死者も消えない。
「自分が矛盾だらけで、嫌になってる」
スマホから聞こえてきた弱々しいつぶやきに、また胸が苦しくなった。
こんなふうに相手を理解できる気がするのは、あまり良いことではないんだろう。響野は俺ではないからだ。たとえ、彼が体験したことの一部が自分に重なるとしても。
だから、“わかる”という感覚を頼りに相手を自分と同じ存在のように見なすのは危ういと思う。
それでも、道の向こうから次のバスがやってくるのをながめるうちに、どうしても我慢できなくなった。
「目には治ってほしいとずっと思ってた。でも、視力が一度戻ってぼやけていくとき、何て言うか……ほっとしたんだ」
まるで、言いにくいことを交代で告白するゲームにでも参加しているみたいに、今度は響野が打ち明け話をはじめる。
「家にまだ家族の気配が残ってて、夢にも出てくるし、今もそのへんにいるみたいに思える。そうでないことはわかってるよ。だけど、そうでないってことをはっきりさせたくもない」
弱さをさらけだした言葉に胸を突かれた。どう応えようか迷って、「そうか」と相づちを打つ。
「おかしいと思うか?」
響野が不安そうに聞いてくる。かすかに揺れる声に、スマホを握る手に力がこもった。
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火葬されて肉体がなくなったとしても、それだけで死者が消えるようなことはない。もういない人間の記憶を持っているのは、この世でまだ生きている人間のほうだ。生者が忘れない限り、死者も消えない。
「自分が矛盾だらけで、嫌になってる」
スマホから聞こえてきた弱々しいつぶやきに、また胸が苦しくなった。
こんなふうに相手を理解できる気がするのは、あまり良いことではないんだろう。響野は俺ではないからだ。たとえ、彼が体験したことの一部が自分に重なるとしても。
だから、“わかる”という感覚を頼りに相手を自分と同じ存在のように見なすのは危ういと思う。
それでも、道の向こうから次のバスがやってくるのをながめるうちに、どうしても我慢できなくなった。
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