光の部屋、花の下で。

六日目

17

　桂けいと付き合っていた当時、俺はまだ学生で、アルバイト代と専門学校の奨学金を合わせてどうにか生活していた。
　とても金銭に余裕があったとは言えない状態だったけれど、彼のマンションに入り浸りながらも、自分が借りているアパートを解約しようとは思えなかったし、相手から一方的に別れを切り出されたときには、解約しなくて良かったと思った。
　二十五年分の人生が降り積もった自分の価値観を、わかるように伝えられた気はしなかった。それでも電話口の響野は、彼なりにこちらの主張を咀嚼しようと努めてくれたらしい。
「養うとかの話か？」
　内心では「またか」と思っていたかもしれないけれど、たずねる声はうんざりした様子でもなかった。わからないから確認をしてみた、と言いたげだ。
「逆の立場だったら響野にはできたんだろうな、と思うから」
「もし、俺が水元の立場だったら、役立たずだったよ」
　ややあって聞こえてきた響野の声は考え深げだった。
「介助の知識もないし、家事もひどいし、そもそも病院で会ったときに声をかけようと思わない」
「ひどい」
　俺が抗議すると、相手は気まずそうに押し黙る。うっかり本心を言いすぎたと思っているのだろう。そう思っていたら、スマートフォンが言葉の続きを伝えた。
「……水元を面倒事めんどうごとに巻き込んだっていう負い目があるのは俺のほうだ」
　しぼり出すような声音に目を見張る。
「それはいいよ。自分から巻き込まれたんだし」
　驚きのあまり、あれこれ考える前にそう応えていた。
「お人好しすぎないか？」
「そんなにキレイな意味じゃなくてさ。結果的に響野とこうなってるんだから、下心もあったんだよ、きっと」