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六日目
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「今度はフラないでくれ」
ピントがずれたまま相手が頼んでくるので、ほとんどあきれて、また返事が遅れる。
「……すごいこと言うな」
「こんなこと、水元以外に言わないよ」
俺の逡巡などお構いなしに、彼はがんがん押してくる。押されているのは俺なのに、他人事のように感心した。
「響野さ、モテないって嘘だろ?」
「茶化すなよ」
「茶化してないよ。どちらかと言えば、うらやましいよ。そうやって自分の言いたいことをはっきり言えるところとか」
ときどき、停留所の方向に視線を向けてバスの影を確かめる。少し黄色い光が混じりはじめた空と海をながめながら、思いがけず相手と長話をした。
スマートフォンを介したほうが、自分の考えを抵抗なく口にできた。
響野もそうなのだろうか。やはり、面と向かっては言いにくそうな話を淡々と伝えてくる。銀行の預貯金がいくらあるとか、遺産相続の手続きがどのあたりまで進んでいるか、とか。
「それ、俺が聞いてもいい話?」
さすがに詳しく聞いてはいけない気がして、今度は俺のほうが彼の話をさえぎると、「金のことで不安だったんじゃないのか?」と逆に質問された。
「そういうわけだから、水元も俺のことは養おうとしなくていいからな」
「あー」
声をあげた瞬間、一緒に住みたいという相手の提案にすぐに返事をできなかった理由に思いいたった。
先の見えない今の状況が、響野は不安だろうと思った。家族を亡くして、自分も体調を崩して、これから先どうするのか。
だけど、不安だったのは俺のほうだ。響野の力になりたいと思うのに、彼の人生を丸ごと抱え込むには自分が力不足だと思えた。
ピントがずれたまま相手が頼んでくるので、ほとんどあきれて、また返事が遅れる。
「……すごいこと言うな」
「こんなこと、水元以外に言わないよ」
俺の逡巡などお構いなしに、彼はがんがん押してくる。押されているのは俺なのに、他人事のように感心した。
「響野さ、モテないって嘘だろ?」
「茶化すなよ」
「茶化してないよ。どちらかと言えば、うらやましいよ。そうやって自分の言いたいことをはっきり言えるところとか」
ときどき、停留所の方向に視線を向けてバスの影を確かめる。少し黄色い光が混じりはじめた空と海をながめながら、思いがけず相手と長話をした。
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響野もそうなのだろうか。やはり、面と向かっては言いにくそうな話を淡々と伝えてくる。銀行の預貯金がいくらあるとか、遺産相続の手続きがどのあたりまで進んでいるか、とか。
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さすがに詳しく聞いてはいけない気がして、今度は俺のほうが彼の話をさえぎると、「金のことで不安だったんじゃないのか?」と逆に質問された。
「そういうわけだから、水元も俺のことは養おうとしなくていいからな」
「あー」
声をあげた瞬間、一緒に住みたいという相手の提案にすぐに返事をできなかった理由に思いいたった。
先の見えない今の状況が、響野は不安だろうと思った。家族を亡くして、自分も体調を崩して、これから先どうするのか。
だけど、不安だったのは俺のほうだ。響野の力になりたいと思うのに、彼の人生を丸ごと抱え込むには自分が力不足だと思えた。
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