光の部屋、花の下で。

六日目

13

　文字が目に入った瞬間、通話ボタンをタップした。呼び出し音を聞きながら、そういえば時刻表をまだ調べていなかったと思ったけれど、すぐに相手が電話に出たので、「あと10分くらいこない」と適当なことを言う。駅方面に向かう路線だし、まあそんなものだろう。
「朝、大丈夫だったか、電車？」
　スマートフォンごしの響野の声はやけに甘く聞こえた。ＬＩＮＥのそっけない文面との差は何なんだ？と思うけれど、もしかすると、俺の耳がおかしくなっているんだろうか。
「大丈夫だった。……けさはごめんな」
「何で、水元があやまるんだ？」
「身体、無理をさせたんじゃないかと思って」
「別に大丈夫だよ」
　そう応じた響野が「俺も悪かった」とあやまってくる。
「時間ギリギリにさせて」
「いいよ、間に合ったし。というか、ほとんど俺の自業自得っていうか……」
　続けるほどに会話の内容がきわどくなっていくので、話しながら戸惑った。相手の姿と生々しい快楽の記憶がよみがえり、一瞬ぼんやりする。
「響野が情熱的で……嬉しかった」
「待てよ。そこバス停だよな？」
　電話向こうで、恋人はあわてたように俺をさえぎった。
　ちらりと周囲を見回し、身体の向きを車道に向ける。
「バス停だけど、人はそんなにいないよ」
　また適当なことを言いながら、さりげなくバス待ちの列を離れた。けさあたりから、どうも頭のネジが何本かゆるんでいるみたいで気まずい。
　停留所から数メートルも移動すると、道路沿いの建物が減って、再び海岸線が見えはじめる。写真を撮った時点から、また少し海の色合いが変化したようだ。