光の部屋、花の下で。

六日目

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　店を出て、バス停までの狭い道を歩いた。
　採用の話を持ちかけるのは、二つの方向性が異なる心配があって勇気が必要だった。一つ目は、自分が相手の施設に求められている人材かどうかわからない、という心配。もう一つは、計画が進んでいるとはいえ、まだオープンしていない施設のスタッフを志望しても大丈夫だろうか、という心配だった。
　俺が逡巡しているあいだに先輩のほうが「転職活動はどう？」と話を振ってきたので、何箇所か介護施設を受け、そのうちのいくつかからは内定が出たことを伝える。
「さすがさすが」
　由香里先輩はまるで自分の手柄のように満足そうにうなずいた。もっとも新人時代、先輩にはみっちりと仕事を教わったから、実質的には彼女のおかげと言っても過言ではなさそうだ。
「先輩のところは、いつ頃スタッフを募集するんですか？」
「うちはまだ先よ。せめて着工時期と完成時期が決まらないとね」
「募集をかける段階になったら教えてください」
　心を決めてもう一度頼むと、先輩は即答せず、こちらの真意を探るような顔をした。
「うん、そうね。正直言ってありがたい申し出だから、そうさせてもらおうかな。でも、どれくらい時間がかかるかわからないし、聖君の都合を優先してよ」
「わかりました」
　うなずいたところで海沿いの県道に出る。今までも海は見えていたけれど、急に建物がなくなって視界が開け、目の前に水平線が広がった。
　光の加減なのか、浅黄あさぎ色の空と藍色の波のコントラストがあまりにきれいだったので、思わず立ち止まり、スマートフォンで写真を撮った。
「いいところですね」
　スマホを下ろして言うと、「海が好きなのよ」と彼女は笑った。