光の部屋、花の下で。

三尾

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六日目

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「お久しぶりー。何だかすごく元気そうね!」
 電話をして落ち合った由香里先輩は、俺の顔を見るなりそう言った。
 もちろん、ただの挨拶で、それ以上の意味はない。……はずだ。そう思いながらも、一時間半ほど前まで自分がしていた行為を言い当てられたみたいで笑顔が引きつりそうになった。
 先輩は最後に会ったときとあまり変わっていない。眉の下がった柔和な丸顔がうっすらと日焼けしているところが、変化と言えば変化だろうか。
 こっちにきてから海岸をよく散歩するようになった、と相手は言った。施設の開所準備に合わせて住居も移したそうだ。
 バス停からほど近いという建設予定地を案内してもらう。まだ重機も入っていない、かろうじて造成されただけの平らな土地だった。敷地面積は広い、ように感じるけれど、介護施設としてはどうなのだろう。建物ができたあとの姿をうまく想像できなかった。
 造成地を歩きながら、相手とこちらの近況を代わる代わる報告し合う。目の具合が悪い友達は大丈夫か?と聞かれたので、あわてて今までのメールの礼を言った。
「助かりました」
 頭を下げる俺に、彼女は「いいえー」と笑う。
「友達のためにあれこれやってあげるっていいよね。長い付き合いのお友達なの?」
「付き合いは……どうなんでしょうね……十年以上会ってなかったんですが、最近再会して」
ひじり君の十年以上って、十代の頃とかじゃないの?」
「中学の友達です」と説明すると、「ああそうなんだ」と由香里先輩はうなずいた。それ以上の相づちはなかったけれど、「ああそうなんだ」と言った瞬間、相手の目がきらりと光った気がして、何かが伝わってしまったんだろうかと、どぎまぎした。
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