光の部屋、花の下で。

三尾

文字の大きさ
上 下
291 / 377
六日目

5

しおりを挟む
 暗闇で抱き合っているあいだは、ほとんど意識することがなかったけれど、明るい光の中で見る彼は、やっぱり視線の位置が微妙にずれていて、見たいものをきちんと捉えられていないのだとわかる。
 このまま、ずっと視力が戻らなければ、生活だけでなく仕事の内容や今の職場との関係も見直さざるをえなくなるのかもしれない。
 そんな先の見えない状況が不安でないはずはないだろう。もしも自分が響野の立場だったら、と想像するだけで胃が痛くなりそうだ。
「俺が、何も心配しないでゆっくり休めって言ってやれたら良いんだけどな」
 響野の不安を軽くしてやりたいと思う。しっかり休養したほうが良いというなら、必要なだけ休ませてやりたかったし、俺が何とかするから心配するなと言ってやりたかった。
 でも、目下求職中の自分が言っても説得力がない。
 俺の気持ちがどういうニュアンスで伝わったのか、響野は困った顔をした。
「養ってくれとは言ってない」
 彼らしいプライドを見せて、そんなふうにことわってくる。
 思わず苦笑すると、響野の手が伸びてきて太腿をぎゅっとつかまれた。しよう、というあからさまな合図だ。少なくとも、がわかっている者同士のあいだではそうだけれど……響野はわかってやっているんだろうか?
「なるべく、早く治すよ」
「そうじゃないよ。焦ることないって、そう言いたかったんだ」
 太腿に置かれた手に応じるように肩先をなでると、相手は小さく息をつく。
「ゆっくり休んで。本当に、そう思ってる。あとは――男の意地みたいなものだよ」
「意地?」
「……好きな人のことは守りたいだろ」
「俺の意地はどうなるんだよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

冴えないおじさんが雌になっちゃうお話。

丸井まー(旧:まー)
BL
馴染みの居酒屋で冴えないおじさんが雌オチしちゃうお話。 イケメン青年×オッサン。 リクエストをくださった棗様に捧げます! 【リクエスト】冴えないおじさんリーマンの雌オチ。 楽しいリクエストをありがとうございました! ※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。

営業活動

むちむちボディ
BL
取引先の社長と秘密の関係になる話です。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない

すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。 実の親子による禁断の関係です。

処理中です...