光の部屋、花の下で。

三尾

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五日目

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 そういう意味じゃないなら紛らわしいことを言うなと、怒る気力さえ持てなかった。否定されても恐怖をぬぐいきれない。彼がいなくなってしまうのではないかという恐怖を。
「俺はただ、気持ちが同じなら、未来のことであれこれ悩むより一緒にいればいいと思ったんだ」
「どうして?」
「どうしてって……」
 こちらの言葉を困ったように反復した彼は、「好きだからだよ」と続ける。
 何度か言われて十分承知しているはずなのに、今度も胸の鼓動が早くなった。
「俺のどこがいいの?」
 さらに困らせそうな質問をすると、案の定、相手はひどくうろたえた。お互いに戸惑う一方で、ふたりのあいだの空気がどんどん甘くなっていくのを感じる。響野はこの空気に気付いているだろうか? ……気付いているだろうな。その証拠に、相手の頬にもしゅが差しはじめている。
「声とか」
「声?」
 不思議なことを言われた。内心で首をかしげると、響野の顔の赤みが増す。
「や――やさしいところとか」
 自分自身を支えるように、あるいは、どこかへ行きそうになる身体を留めるように、彼は作業台のふちをにぎった。
「それから」
 必死で言葉を継ごうとする響野を見ているうちに、くらくらとめまいがしてくる。呼吸をし忘れていたせいだ。
 コーヒーどころではなくなって、カップを取り落とす前に作業台の上に置いた。
 マグカップの音に顔を上げた響野が、再び俺のほうへ手を伸ばした。探るように揺れた指先がふれ、二の腕をつかまれる。
「響野」
 知らず、弱々しい声がもれた。怖かった。前に進めば引き返せないとわかっているのに自分を止められそうにないことが。
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