光の部屋、花の下で。

五日目

91

「そんな感じじゃないか、今も」
　熱っぽい声で言われた。とても友達に向けるようには聞こえない声に、苦笑をこらえて相手の頬から手を下ろす。
　そのまま場所を移動することなく、台所の作業台の前で彼と話を続けた。
　響野はなぜか、俺が同棲していた元恋人を由香里先輩だと思っていたらしい。そんな勘違いが生まれる余地があっただろうか？と自分の言動を振り返る。
　誤解を解くために、少しだけ桂の話をした。プライドが高いところや頭の切れるところは、そう言えば響野に似ていなくもなかった。話しながらそのことに気付いて、何とも言えない気分になる。
　まさか俺は、好きになる相手にいつも響野の面影を重ねていたんだろうか？
　だとしたら……下心を持たないなんて……はなから無理だったんじゃないだろうか。
　桂について話せば、必然的に俺がゲイであることも明かす羽目になったけれど、それについては、響野は「そうか」と言っただけだった。
　特に驚かれなかったのは、どこかの時点で知られていたということなのか。でも、由香里先輩を元恋人だと思っていたなら、そういう話でもないのだろうか。
　不可解に思いながら、コーヒーサーバーからふたり分のコーヒーをマグカップに注ぐ。
「隠そうと思ってたわけじゃないんだ。……タイミングがつかめなかった。こんな話をしても、言いわけにしか聞こえないだろうけど」
　名古屋に住む共通の知り合いから、去年、桂が結婚したことを聞いた。いかにも有言実行の彼らしいと思った。
　桂が、彼自身の思い描いた人生設計の通りに幸せであればいい。東京への復帰人事を祝う言葉を求められていなかったように、向こうが俺の祝福を望んでいるとも思えないけれど。