光の部屋、花の下で。

五日目

78

　どうしてだろう。俺はもう少し嘘や方便がうまいタイプだと思っていた。大人になってからは特に、自分の意見を押し通すよりも、周囲となるべく波風を立てないことを優先してきたつもりだった。
　それなのに、響野と再会してから気持ちをごまかせないことが増えた。うっかり本音をもらしたり、誰にも話すつもりのなかった自分の考えを口にしたり。
　どうして彼と話しているとこうなってしまうのだろう。おかげで不必要に相手を傷つける羽目になる。ゆうべのように。そして現在いまみたいに。
　自殺を疑われた響野は、さすがにショックを隠しきれない様子だった。足元がふらついたかと思うと、俺が手を差し伸べるよりも早く、自分で物干し台をつかんで身体を支える。
「死ぬなら、もっと確実な方法にするよ。民家の二階じゃ高さが微妙だ」
　気丈にそう言ったものの、結局、相手はそろそろと腰を落として、コンクリの床にしゃがみ込んでしまった。
　何か声をかけなくてはと思うのに、何も言葉が出てこない。
「そんなに飛び降りたそうに見えたか？」
　俺の足元で響野が聞いた。
　何度か口を開閉させたあげく、どうにか「いや」と答える。その嘘は一瞬で相手に見抜かれたらしい。こちらを見上げる顔が険けんのある表情を浮かべた。
「はっきり言えよ」
　地面にしゃがみ込んでいる響野に叱責され、思わず腰を下ろす。互いの目の高さが合った。でも視線は依然として交わらないままだ。
「帰ってくる途中で、響野がベランダにいるのが見えた」
　俺は歩道から見た光景と、そのときに自分が考えたことを彼に伝えた。ほとんど条件反射のように動いたから、まともにものを考えていたかは怪しいけれど。