光の部屋、花の下で。

三尾

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五日目

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 頭を冷やす時間がほしい。そう思いながら歩いていたら、ちょうど良いタイミングでスマートフォンが鳴った。
 出てみると、朗らかな男性の声が、聞き覚えのある介護グループの名を告げた。
 俺の携帯電話で間違いないかを確認したあと、電話向こうの相手は「小野寺おのでらです。先日はお世話になりました」と改めて名乗った。二日前に受けた面接の結果が採用になったことを告げる電話だった。
 小野寺さんの大きな顔の中央にちょこんとかかった銀縁ぎんぶちの眼鏡を思い出し、急いで騒音が少ない場所に移動する。二つ目の内定を告げる電話を切る頃には、頭の熱はだいぶ引いていた。
 スマホをポケットにねじ込み、道幅の広いタイル敷きの歩道を再び歩きだす。電話の内容に触発されて、いきおい、思考は転職後のことに向かった。
 神奈川に戻るための準備と、戻ってからの生活のこと。より具体的に言えば、住むエリアを決めて、物件探しと賃貸契約をすませ、引っ越しの荷造りと転入転出に伴う諸手続きを進めること。どれも新生活の前に考えておかなければならないことだった。
 自分で部屋を手配して住処すみかを移るのは、実家を出た十八のときから数えて三回目になる。中学時代の三重への引っ越しも含めれば四回目で、それ以前にも、母親がおやじと結婚したときや、母子ふたりでいた当時から、家はころころと変わっていた記憶があった。
 住む場所が安定しないことには慣れていたけれど、数をこなせば手間が減るというものではなく、やはり引っ越しは面倒くさい。
 考えなければならないことばかりだ。
 それに響野の目のことは、どう考えておけば良いだろう?
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