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五日目
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おそらく、これが最後だとふたりともわかっていて、だけど家の前じゃキスもできない。
むくれた顔で「ありがとうございます」と右手を差し出すと、ノアさんは笑って俺の手を握り返した。
「頑張れよ」
温かい手の感触にまた涙がこぼれる。うつむいた俺の頭を、彼は父親や兄貴がそうするみたいにくしゃくしゃと乱暴になでた。
「白状すると、俺もセイに重ねてたよ。好きなやつじゃなくて、自分をな」
それが二つ目の“ごめん”だ、とノアさんは言った。
そんな気はしていたから黙ってうなずいた。ノアさんが俺にしてくれたことは、きっと全部、高校生の彼がしてほしかったことなのだ。
高校のことを思い出したついでに、卒業アルバムのスナップ写真にノアさんが写っていた話をすると、今まで知らなかったのか、「本当に?」と彼は目を丸くした。
「本当ですよ。ノアさん、本当にうちの高校にいたんだな、って思いました」
特に変なことを言ったつもりはなかったけれど、それを聞いたノアさんは、なぜか急にそっぽを向いて、俺に顔を見せようとしなかった。
* * * * *
「さっきは悪かった」
身に覚えのない謝罪を受けて、目を伏せている相手を思わず見た。
布団と洗濯物を干し終えたあと、一階に戻ろうとしたときだ。階段を上がってきた響野と鉢合わせた。
俺が階段を降りていくよりも先に、向こうはこちらに気付いていたらしい。
二階の階段をのぼりきったところにあるホールは、吹き抜けの音響効果もあってか、音がよく響く。二階で人が動いていると、一階にいても気配を感じることができた。
むくれた顔で「ありがとうございます」と右手を差し出すと、ノアさんは笑って俺の手を握り返した。
「頑張れよ」
温かい手の感触にまた涙がこぼれる。うつむいた俺の頭を、彼は父親や兄貴がそうするみたいにくしゃくしゃと乱暴になでた。
「白状すると、俺もセイに重ねてたよ。好きなやつじゃなくて、自分をな」
それが二つ目の“ごめん”だ、とノアさんは言った。
そんな気はしていたから黙ってうなずいた。ノアさんが俺にしてくれたことは、きっと全部、高校生の彼がしてほしかったことなのだ。
高校のことを思い出したついでに、卒業アルバムのスナップ写真にノアさんが写っていた話をすると、今まで知らなかったのか、「本当に?」と彼は目を丸くした。
「本当ですよ。ノアさん、本当にうちの高校にいたんだな、って思いました」
特に変なことを言ったつもりはなかったけれど、それを聞いたノアさんは、なぜか急にそっぽを向いて、俺に顔を見せようとしなかった。
* * * * *
「さっきは悪かった」
身に覚えのない謝罪を受けて、目を伏せている相手を思わず見た。
布団と洗濯物を干し終えたあと、一階に戻ろうとしたときだ。階段を上がってきた響野と鉢合わせた。
俺が階段を降りていくよりも先に、向こうはこちらに気付いていたらしい。
二階の階段をのぼりきったところにあるホールは、吹き抜けの音響効果もあってか、音がよく響く。二階で人が動いていると、一階にいても気配を感じることができた。
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