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五日目
58 ※
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“今度”がやってきたのは、三月の卒業式直前だった。
それまでは、お互いに忙しすぎて、会うことさえままならなかった。ノアさんは仕事とお母さんの通院の付き添い、俺は教習所とバイトと新生活の手配に奔走していた。
教習所は無事に卒業検定までを終え、運転免許試験場の試験もパスして晴れて免許を取得した。
ノアさんに紹介してもらった物件は、二月中に契約をすませた。引っ越し業者への申し込みも終わり、あとは春休みのあいだに荷造りと不要品の処分を進める予定でいた。
ちょうど学校が自由登校に入った頃、携帯電話にノアさんから連絡がきた。
「海に行かないか?」という相手の誘いにOKして、今度は鳥羽方面へ出かけた。
「運転、俺もできますけど」
待ち合わせ場所で言ってみると、ノアさんは大いに警戒する顔つきになり、「若葉マークにほいほい自分の車を任せると思うのか?」と応えた。
「おやじに車借りて何度も乗ってますよ。高速も余裕です」
「甘いな。その自信と油断が命取りなんだ」
そう言いながらも、結局、ノアさんは帰り道の半分くらいを運転させてくれた。
途中で寄ったホテルでも、俺に“抱くほう”をやらせてくれた。卒業祝いと免許取得のお祝いだと言って。
「前に約束したからな」
「そんなに……特別なイベントにしないとダメなくらい下手ですか?」
ベッドで背を向けて寝ている相手の腰にふれると、汗で湿った皮膚が手のひらに吸い付いてくる。愛撫をはじめた俺の手から逃げるように身をよじって、ノアさんは「もう無理だって」と仰向けになった。
「下手じゃないよ。セイはやさしすぎるんだ」
顔を覗き込んだ俺の頬にふれて言う。疲れているのか、半分眠りかけているような声だった。
「もっと酷くしていい……たくさん酷い目に遭ったんだから」
それまでは、お互いに忙しすぎて、会うことさえままならなかった。ノアさんは仕事とお母さんの通院の付き添い、俺は教習所とバイトと新生活の手配に奔走していた。
教習所は無事に卒業検定までを終え、運転免許試験場の試験もパスして晴れて免許を取得した。
ノアさんに紹介してもらった物件は、二月中に契約をすませた。引っ越し業者への申し込みも終わり、あとは春休みのあいだに荷造りと不要品の処分を進める予定でいた。
ちょうど学校が自由登校に入った頃、携帯電話にノアさんから連絡がきた。
「海に行かないか?」という相手の誘いにOKして、今度は鳥羽方面へ出かけた。
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待ち合わせ場所で言ってみると、ノアさんは大いに警戒する顔つきになり、「若葉マークにほいほい自分の車を任せると思うのか?」と応えた。
「おやじに車借りて何度も乗ってますよ。高速も余裕です」
「甘いな。その自信と油断が命取りなんだ」
そう言いながらも、結局、ノアさんは帰り道の半分くらいを運転させてくれた。
途中で寄ったホテルでも、俺に“抱くほう”をやらせてくれた。卒業祝いと免許取得のお祝いだと言って。
「前に約束したからな」
「そんなに……特別なイベントにしないとダメなくらい下手ですか?」
ベッドで背を向けて寝ている相手の腰にふれると、汗で湿った皮膚が手のひらに吸い付いてくる。愛撫をはじめた俺の手から逃げるように身をよじって、ノアさんは「もう無理だって」と仰向けになった。
「下手じゃないよ。セイはやさしすぎるんだ」
顔を覗き込んだ俺の頬にふれて言う。疲れているのか、半分眠りかけているような声だった。
「もっと酷くしていい……たくさん酷い目に遭ったんだから」
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