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五日目
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「この近くのマリンランドでマンボウも見られるよ。見たい?」
「え、見たい」
思わず前のめりに応えてしまった。俺の食いつきが良すぎたせいか、ノアさんが面白そうな顔をする。
「じゃあ行こう」
それだけ言うと、彼はクルーズ船の手すりに両肘をついて、のんびりと志摩の海をながめていた。
日帰りで少し遠くの観光地へ出かけるときのノアさんは、本心を隠すようなわざとらしい笑みが消えて、いつもより気楽そうに見える。
食事をすませて帰途につくまでのあいだ、ときどき、行きの車の中でノアさんが言ったことを考えていた。
高三の冬に高校を中退して働きながらあちこちの土地を点々とした。移動の目的が、住む場所と仕事を求めてだったのなら、当時のノアさんも、こんなふうに遊ぶ時間はなかっただろう。
高三の冬。……ちょうど今の俺と同い年だ。
今を生きろよ、という相手の言葉を反芻しながら、うまく考えをまとめられないまま、小さな島がいくつも浮かぶ英虞湾をあとにした。
帰る途中の車内で、ノアさんには誰かから電話がかかってきた。
助手席でラジオを聞きながら、うつらうつらしていたときだ。運転席と助手席のあいだのコンソールボックスに置いてあった携帯電話がふるえ出し、ノアさんが身じろぎしたのがわかった。
ぶぶぶ……と低い音で振動し続ける機械をつかむと、彼はそれをズボンのポケットにしまう。
寝たふりをしてやりすごそうかと思ったけれど、本当に眠りかけていたので、かえってうまく知らんぷりができなかった。運転席に顔を向けると、同じタイミングでこちらを見てきたノアさんと目が合う。
「え、見たい」
思わず前のめりに応えてしまった。俺の食いつきが良すぎたせいか、ノアさんが面白そうな顔をする。
「じゃあ行こう」
それだけ言うと、彼はクルーズ船の手すりに両肘をついて、のんびりと志摩の海をながめていた。
日帰りで少し遠くの観光地へ出かけるときのノアさんは、本心を隠すようなわざとらしい笑みが消えて、いつもより気楽そうに見える。
食事をすませて帰途につくまでのあいだ、ときどき、行きの車の中でノアさんが言ったことを考えていた。
高三の冬に高校を中退して働きながらあちこちの土地を点々とした。移動の目的が、住む場所と仕事を求めてだったのなら、当時のノアさんも、こんなふうに遊ぶ時間はなかっただろう。
高三の冬。……ちょうど今の俺と同い年だ。
今を生きろよ、という相手の言葉を反芻しながら、うまく考えをまとめられないまま、小さな島がいくつも浮かぶ英虞湾をあとにした。
帰る途中の車内で、ノアさんには誰かから電話がかかってきた。
助手席でラジオを聞きながら、うつらうつらしていたときだ。運転席と助手席のあいだのコンソールボックスに置いてあった携帯電話がふるえ出し、ノアさんが身じろぎしたのがわかった。
ぶぶぶ……と低い音で振動し続ける機械をつかむと、彼はそれをズボンのポケットにしまう。
寝たふりをしてやりすごそうかと思ったけれど、本当に眠りかけていたので、かえってうまく知らんぷりができなかった。運転席に顔を向けると、同じタイミングでこちらを見てきたノアさんと目が合う。
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