光の部屋、花の下で。

五日目

38 ※

　ものの数分で作業を終えたノアさんは、工具箱を片付けながら、俺がずっとそばに立っていることに気付くと、「先に部屋に行ってて良かったのに」と笑った。
　俺は、笑い返せなかった。一緒に二階へ上がると、彼の部屋には午後の光が射し込んでいて、空き教室と同じ金色のほこりの粒がかすかに舞っていた。
「どうかした？」
　いつものように服を脱いで、ベッドの上で向かい合わせにすわる。手と口でお互いにふれ合っている最中に耳元でささやかれた。
　とっさに相手の顔を見返すと、記憶にあるものとはかたちの違う黒い目と視線が合う。
「……何でですか？」
「何か考えてるだろ？」
「いえ、何も……」
　ふうん、とつぶやいたノアさんは、それ以上は詮索してこなかった。けれども、耳元から首を伝って降りていった唇が、鎖骨を通り過ぎたあたりで急に離れたかと思うと、彼は俺の肩をつかんでベッドに押し倒す。
　無表情にこちらを見下ろしてくる相手を見返して、今日は“こっち”を求められているらしいと理解した。
　やっぱり、何か伝わってしまったんだろうか？
　気になったけれど、直接たずねることもできなくて、自分から四つん這いの姿勢を取って枕を抱えた。
　いいかげん、頭にこびりついた記憶を消去しなくてはならない。そう思いながら、目を閉じて力を抜く。背中から腰へ移動していく手の動きに集中して、皮膚の内側に眠る欲望を目覚めさせようとした。
　努力は長い時間は必要なかった。すでに何度も彼とつながっている身体は、背後から侵入してきた指を受け入れ、種のように硬い一点を刺激されると、素直に熱を帯びてほぐれていく。じきに快楽が閾値いきちを上回る瞬間がやってきて、内側が溶けはじめた。