光の部屋、花の下で。

三尾

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五日目

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 運転席の窓を下ろして、ノアさんが「じゃあな」と挨拶をする。玄関前まで送っていかないのは、一緒にいるところを見られないほうが良いだろうとふたりで話し合って決めたからだった。
「また連絡するよ」と言う相手に、「はい」とだけ応えてサドルにまたがる。
 エンジン音を背後に聞きながら未舗装の地面を蹴って、そういえば別れ際にキスとかもしたことがないな、と思った。
 ノアさんは物知りで親切だけれど、へらへらした笑顔の下で何を考えているのか読めないときがあって、そういう本心をはぐらかすような態度は、俺みたいに距離をあけて彼と付き合おうとしている人間であっても、たまに不安や不快さを刺激される。恋愛に不向きだと自分で言っていたのは、そんなところも理由の一つなんだろう。
 ノアさんに関するうわさを聞く限り、笑顔の下で彼が何も考えていないとは思えなかった。無論、高校で仕入れた話を全部信じているわけではない。でも、今のところ、うわさと事実のあいだに大きな食い違いがないことも事実だ。
 彼はゲイで、複数の相手がいて、父親を亡くしている。
 そして、ここから南に行った山沿いには、“前原”と表札がかかったお城のように立派なお屋敷が建っていた。うわさを信じるなら、そこはノアさんがかつて家族と住んでいた場所だ。本人に聞くと、「高校生までいたよ」と、これまたうわさを肯定するように言われた。
「今は叔父の一家が住んでる」
「家を交換したんですか?」
 俺がたずねると、「それは新しい視点だな」とノアさんは感心したようにうなずいた。
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