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五日目
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「そういや、セイ、進路は?」
「もう決まってますよ、専門に」
介護福祉士を目指そうと思っていることを伝えると、彼は「何で?」と重ねて聞いてきたので、推薦入試で専門学校の奨学生枠に受かった話をした。
少し迷ったあと、「夏まで祖母を介護してたんです」と付け加える。
「どういう仕事かは大体わかってるから……やってみようかと思って」
ほかにも事情や経緯は色々あったけれど、いざノアさんに説明しようとするとうまく言葉にならなかった。家庭の経済状況、父子家庭であること。何を言っても重い話題として敬遠されそうだ。そんなに深い話をするほど、お互いを知っているわけではないのだし。
「いいんじゃないか? セイなら向いてるよ」
だから、ノアさんがたいした理由も聞かないうちに俺の進路に理解を示したことが意外だった。
「そうですか? ……どうも」
「さわり方がやさしいからな。初めてのとき、やけに人肌にさわり慣れてるなと思ったけど、そういうことなら納得だ」
前言撤回。やっぱりろくでもなかった。
「何でもかんでもそっちに結びつけるのやめてください。キモいんで」
半分本気で腹を立てたけれど、ノアさんはハンドルを切りながら、けらけらと笑っていた。
俺の家から少し離れた休耕地までくると、彼は道のわきに車を停める。
夏のあいだに育った藪草が人間の背丈を追い越して繁っている横で、助手席のドアを開け、後部のハッチバックから自転車を降ろした。高校にもバイト先にも、ノアさんの家へ行くときにも使っている俺のママチャリだ。
「もう決まってますよ、専門に」
介護福祉士を目指そうと思っていることを伝えると、彼は「何で?」と重ねて聞いてきたので、推薦入試で専門学校の奨学生枠に受かった話をした。
少し迷ったあと、「夏まで祖母を介護してたんです」と付け加える。
「どういう仕事かは大体わかってるから……やってみようかと思って」
ほかにも事情や経緯は色々あったけれど、いざノアさんに説明しようとするとうまく言葉にならなかった。家庭の経済状況、父子家庭であること。何を言っても重い話題として敬遠されそうだ。そんなに深い話をするほど、お互いを知っているわけではないのだし。
「いいんじゃないか? セイなら向いてるよ」
だから、ノアさんがたいした理由も聞かないうちに俺の進路に理解を示したことが意外だった。
「そうですか? ……どうも」
「さわり方がやさしいからな。初めてのとき、やけに人肌にさわり慣れてるなと思ったけど、そういうことなら納得だ」
前言撤回。やっぱりろくでもなかった。
「何でもかんでもそっちに結びつけるのやめてください。キモいんで」
半分本気で腹を立てたけれど、ノアさんはハンドルを切りながら、けらけらと笑っていた。
俺の家から少し離れた休耕地までくると、彼は道のわきに車を停める。
夏のあいだに育った藪草が人間の背丈を追い越して繁っている横で、助手席のドアを開け、後部のハッチバックから自転車を降ろした。高校にもバイト先にも、ノアさんの家へ行くときにも使っている俺のママチャリだ。
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