光の部屋、花の下で。

三尾

文字の大きさ
上 下
212 / 377
五日目

28

しおりを挟む
「俺、ここのアルバイトなので……言っていただければ、在庫とか調べられます」
 補足の説明を加えると、彼は正面から俺を見て「知ってる」と応える。
 意外な返しに、今度は俺のほうがまたたいた。
「最近入った人だよね、大学生?」
「いえ高校で」
「ふうん、何年?」
「三年です」
「そうかー。しっかりしてそうだから二十歳はたちは超えてるかと思った」
 屈託のない笑顔を向けられて戸惑う。至近距離で顔を合わせてみると、遠くからながめていたときほどは似ていないことがわかった。
 快活で明るい、いかにも人慣れしていそうな物腰。黒い瞳は切れ長というより、もっとくっきりと弧を描いていて、精悍な顔立ちに似合っている。肉食獣めいたその両目が、笑うと急に目尻が下がってやさしげな印象に変わった。動いた拍子に身体からかすかに煙草の匂いがする。
「ラッチを探してるんだけど、消音タイプってこれだけ?」
 棚を指さして聞かれたけれど、そもそもラッチに関する知識がゼロだったので、すみやかに白旗を上げて相手をサービスカウンターへ案内した。俺が探していた戸車は、現物を見た彼が十秒もしないうちに「これじゃない?」と見つけてくれたので、よけいに情けなかった。
 店の端末で調べると、相手の求める商品は、在庫こそないものの取り寄せできるとわかった。
「どうしますか?」とたずねる俺に、「頼めるならお願いする」と彼は答えた。
「じゃあ、入荷したらご連絡します」
 取り寄せ伝票に書かれた“前原まえばらノア”という名を見下ろしながら請け合う。相手は礼を言って店を出ていき、俺も戸車の代金を精算してから自転車に乗って家へ帰った。
 それが、ノアさんとの直接的な出会いになった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

冴えないおじさんが雌になっちゃうお話。

丸井まー(旧:まー)
BL
馴染みの居酒屋で冴えないおじさんが雌オチしちゃうお話。 イケメン青年×オッサン。 リクエストをくださった棗様に捧げます! 【リクエスト】冴えないおじさんリーマンの雌オチ。 楽しいリクエストをありがとうございました! ※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。

営業活動

むちむちボディ
BL
取引先の社長と秘密の関係になる話です。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

仕事ができる子は騎乗位も上手い

冲令子
BL
うっかりマッチングしてしまった会社の先輩後輩が、付き合うまでの話です。 後輩×先輩。

美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない

すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。 実の親子による禁断の関係です。

処理中です...