光の部屋、花の下で。

五日目

27

　その日も、バイトの終了間際に、おやじに頼まれた物をピックアップしに売り場へ行った。
　指定されたのは、引き戸の戸車とぐるまで、こういう部品が家の中では使われているのか……と、いつものように感心しながら、ドア金具や補修材などを扱うコーナーへ向かった。
　閉店まで一時間を切った店内は客もまばらだ。けれども、目当ての商品棚の前には男性客がひとり立っていた。
　その人を見た瞬間、あ、と動きが止まる。ときどき車用品やＤＩＹ用品のコーナーで見かける客だった。
　相手は、棚と棚のあいだに立っている俺に気付くと、一歩前に移動して道を譲る。店のエプロンをはずしていたから一般客だと思われたのだろう。
「いらっしゃいませ」と挨拶すべきか迷って、結局、何も言わずにポケットから壊れた戸車を取り出した。型番がわからないという理由でおやじに持たされたものだ。樹脂製の滑車部分が経年劣化でひび割れている。
　手に持ったそれと、棚に並ぶ商品とを見比べながら足を進めると、必然的に男性客のいる方向に近づいていくことになった。
　エプロンを着けて働いている最中にも、彼に商品の場所を聞かれたことはなかった。商品棚のラインナップを把握する程度には、この店によくきているのかもしれない。
　思い切って横目で伺うと、視界にゆるくクセのついた黒髪が見えた。シャープな輪郭の横顔が棚の上下左右を見比べている。目当てのものが見つからないのか、めずらしく迷っているふうだった。
「何かお探しですか？」
　声をかけると、相手は驚いたような顔をこちらに向けた。