光の部屋、花の下で。

三尾

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五日目

25

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 亡くなるまでの三年と少しのあいだに何度か、「マリアさんの子やんな」と言われた。たいていは「聖です」と自己紹介をしたあとだ。
 あるとき、どうしても気になって、「マリアを覚えてますか?」と聞いてみた。
「きれいな人やったね。あんた、よう似てます」
 いや……似てないと思います……そもそも性別が違います。そんな混ぜ返しのできる間柄なら良かったのだけれど、普通の祖母と孫ではなかったから、何も言えなかった。
 途中式を書いていた数学のノートの上に、ぽたぽたと涙が落ちて、俺が「やべ」とティッシュを取りにいくあいだに、ばあちゃんの目はテレビの画面に戻っていた。


 ばあちゃんの介護期間は、中二の冬から高三の夏の終わりにかけての、約三年と九か月だった。
 認知症は徐々に進行して、縫い物や字を書くことはずいぶん前にできなくなった。夜は寝つけずに徘徊する日が増えてきたので、かかりつけ医の勧めで睡眠導入剤を服用しはじめた。
 医師やケアマネージャーからは、脳の萎縮が強くなると性格が変わるケースもあると聞かされていたけれど、ばあちゃんの場合、それほど症状は表れず、最期までおだやかな人柄のままだった。
 四十九日がすぎた頃、家と学校のあいだにあったホームセンターでアルバイトをはじめた。運転免許を取るのに金が欲しいと説明すると、おやじも反対はしなかった。
 進路は、給付型の奨学制度がある専門学校に願書を出して、推薦枠で入れることがほぼ決まっていた。あとは成績と素行に気をつけて、定期テストで赤点を取ったり、授業の出席日数を割り込んだり、飲酒や喫煙をして補導や停学を食らったりせずにすごせば、おおむね問題なく卒業できるはずだった。
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