光の部屋、花の下で。

五日目

19

「申しわけありません、こんなに急に」
　自分でもうまく説明できないキャンセルの理由は告げずに、謝罪だけを口にする。
　先輩は「わかった」と応えた。そして、建設現場には何日か通うつもりだから、日取りは今日でなくても問題ない、と続ける。
「明日はどう？」
「大丈夫です。万一何かあれば連絡します」
「じゃあ、またね。……大丈夫？　お友達に何かあったとか？」
　佳子さんと同じような質問をされて、まったく同じように言葉につまった。
　だるそうにしていた響野の様子が浮かび、たちまち頭の中が彼で一杯になるのを感じて、そんな自分に動揺する。
「……ええ、そうです」
「そうか。お大事にね」
　通話を終えたあとも、これからどうすれば良いか、しばらく途方に暮れた。
　二階の部屋に残してきた響野のことを考える。何かあれば、声をあげるかスマホに連絡してほしいと伝えてきた。今のところ、それらしい呼びかけや着信はない。“ヤマザキさん”には、もう電話したのだろうか。
　スマホを下ろして視線を上げると、通路や壁にあいた窓から白くて明るい光が射し込んでいるのが見えた。窓の向こうの、からりと晴れた空を仰いで、自分の気持ちとの落差にため息をつく。
　とりあえず、洗濯でもするか――と思った。


　ずっとそうなのかはわからないけれど、数日を同じ家ですごした印象では、響野には決まった朝のルーティンがあるようだ。
　おおむね、九時から午前中までのどこかで部屋から出てきてシャワーを浴びる。朝食は起きる時間によって、昼食と一緒にすませたり、単体で食べたりとバラバラだけれど、シャワーを省略するつもりはないらしい。