光の部屋、花の下で。

五日目

15

　もともと、二年弱の交際期間の半分くらいは、ふたりですごすよりも彼が不在の部屋で留守番をしていることのほうが多かった。
　会社が借り上げているという桂のマンションは、単身用にしては贅沢な造りだったけれど、名古屋になじむことを拒否した彼の意志そのままに殺風景で物が少なかった。
　がらんとした２ＬＤＫの部屋を思い出すたびに、元恋人の身勝手な別れの理由に腹を立てながらも、相手を憎みきれない自分に気付く。
　努力家で、生きることに一生懸命だった。自分の人生を自分でどうにかしようとしていて、当然のごとくそれは可能だと信じているふしがあった。
　自信と傲慢さは紙一重だと思う。だから、「男をやめる」とか「結婚して親を安心させる」といった人生設計を、桂が自分の意志一つで実現できると考えていたことも矛盾ではないのかもしれない。
　修羅場らしい修羅場もなく別れたはずが、なかなか次の恋愛を求める気になれないまま時間がすぎた。気付けば、桂との交際が終了して四年以上が経つ。
　今さら相手に未練があるわけではないし、よりを戻すことももちろん望んでいない。
　その一方で、桂のように先々までのライフプランを立てて、それに向かって駒を進めていくような用意周到さも持てていなかった。
　むしろ自分の将来について考えだすと、別れぎわの相手の言葉がまとわりついてきて、深い沼の底に引きずり込まれていくように感じる。
「やっぱり結婚したいんだ。子供もいつかはほしいと思ってる」
　交際中の恋人から「結婚したい」と言われたとき、真っ先に浮かんだのは、「女性もいけたのか」という感想だった。相手の言葉にも「女性と」が省略されていた。