光の部屋、花の下で。

三尾

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五日目

14

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 出世コースへの返り咲きを果たした桂は、別人のように、本来の彼が持っていた自信と活力を取り戻した。反対に、九歳年下の同性の恋人がいることや、生活回り全般をその相手に頼り切っている状況に関しては、改善の必要があると思ったらしい。
 四月からの東京勤務について話したあと、彼は補足事項を説明するように、俺との関係を解消したいと言った。
 年度が明ければ、お互いに新生活がはじまるし、遠距離恋愛は難しい。それ以前に、男と関係を持つことはもうやめようと思っている。自分もいい年だし、そろそろ結婚して両親を安心させてやる頃合いだと考えるようになった。
 目の前の椅子に腰かけている恋人だと思っていた存在が、急に、初めて話をする赤の他人のように見えた。
 知っている人間の誰もいない土地で、望まない仕事を命じられても、腐らずに頑張っている彼が好きだった。社会人にはこういうタフさが求められるのだと思えば、愚痴を言いながらも粛々とそれに応えている年上の恋人に単純な尊敬の念を抱きもした。本社復帰が決まったのだって、上司のコネばかりではなく、支社での桂の業績が査定対象となった部分もあっただろうと思う。
 ひと続きの流れのように別れ話を切り出されたのでなければ、もっと素直な気持ちで「おめでとう」と言えたかもしれない。残念ながら、それは叶わなかった。桂は俺からの祝いの言葉よりも、別れを承諾する返事のほうをよっぽど聞きたがっているように見えた。
 関係そのものは、比較的円満に終えられたと思う。
 相手の家に置いていた自分の持ち物を回収する頃には、こちらもだいぶ気持ちが冷めて、本城桂は俺の人生にも必要なくなっていた。
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