183 / 377
四日目
70
しおりを挟む
「どうせ引っ越すことも黙ってんだろ。マジで何も言わねーつもりかよ」
思いがけない方向から攻撃を受けて自分の顔が歪むのがわかった。CDを詰め込んだリュックが急に耐えがたく重く感じられる。
「安西には関係ない」
「おまえ、よく響野をガン見してるよな」
反射的ににらみつけた先で、安西はまだ考え込むような顔をしていた。
そんなふうには見ていない、と否定すべきだった。それなのに、馬鹿正直に黙り込んでしまったのはまずかった。数秒して気付いたけれど、もう遅い。
相手の反応を予測できずに固まっていると、安西はもう一度、「何も言わねーのか?」と聞いてきた。
「……言えるようなことじゃないから」
「ふーん」
俺の返答を聞いた安西は、やはり考え深い表情のままつぶやく。複雑な顔の奥で彼が何を考えているのかわからず、不安だった。同時に、町ですごす最後の日に安西とこんな話をしていることを不思議だとも思う。
何も言わなくて良いのか?と、どうして安西は何度も同じ質問をしてくるのだろう。まるで何もかも打ち明けることが正しいとでも言わんばかりだ。そんな安西だって、いつもは家族の話などしたがらないくせに。
かすかな苛立ちを覚えたとき、ジャケットとスラックス姿の安西の兄貴を思い出した。いつも白衣を着ている松本も。学校に不必要な物で満たされた空き教室も。そこで一年をすごした仲間たちの姿も。
突然、猛烈な寂しさが押し寄せてきて、喉の奥と心臓が同時に痛くなる。
思いがけない方向から攻撃を受けて自分の顔が歪むのがわかった。CDを詰め込んだリュックが急に耐えがたく重く感じられる。
「安西には関係ない」
「おまえ、よく響野をガン見してるよな」
反射的ににらみつけた先で、安西はまだ考え込むような顔をしていた。
そんなふうには見ていない、と否定すべきだった。それなのに、馬鹿正直に黙り込んでしまったのはまずかった。数秒して気付いたけれど、もう遅い。
相手の反応を予測できずに固まっていると、安西はもう一度、「何も言わねーのか?」と聞いてきた。
「……言えるようなことじゃないから」
「ふーん」
俺の返答を聞いた安西は、やはり考え深い表情のままつぶやく。複雑な顔の奥で彼が何を考えているのかわからず、不安だった。同時に、町ですごす最後の日に安西とこんな話をしていることを不思議だとも思う。
何も言わなくて良いのか?と、どうして安西は何度も同じ質問をしてくるのだろう。まるで何もかも打ち明けることが正しいとでも言わんばかりだ。そんな安西だって、いつもは家族の話などしたがらないくせに。
かすかな苛立ちを覚えたとき、ジャケットとスラックス姿の安西の兄貴を思い出した。いつも白衣を着ている松本も。学校に不必要な物で満たされた空き教室も。そこで一年をすごした仲間たちの姿も。
突然、猛烈な寂しさが押し寄せてきて、喉の奥と心臓が同時に痛くなる。
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
冴えないおじさんが雌になっちゃうお話。
丸井まー(旧:まー)
BL
馴染みの居酒屋で冴えないおじさんが雌オチしちゃうお話。
イケメン青年×オッサン。
リクエストをくださった棗様に捧げます!
【リクエスト】冴えないおじさんリーマンの雌オチ。
楽しいリクエストをありがとうございました!
※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない
すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。
実の親子による禁断の関係です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる