光の部屋、花の下で。

三尾

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四日目

70

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「どうせ引っ越すことも黙ってんだろ。マジで何も言わねーつもりかよ」
 思いがけない方向から攻撃を受けて自分の顔が歪むのがわかった。CDを詰め込んだリュックが急に耐えがたく重く感じられる。
「安西には関係ない」
「おまえ、よく響野をガン見してるよな」
 反射的ににらみつけた先で、安西はまだ考え込むような顔をしていた。
 そんなふうには見ていない、と否定すべきだった。それなのに、馬鹿正直に黙り込んでしまったのはまずかった。数秒して気付いたけれど、もう遅い。
 相手の反応を予測できずに固まっていると、安西はもう一度、「何も言わねーのか?」と聞いてきた。
「……言えるようなことじゃないから」
「ふーん」
 俺の返答を聞いた安西は、やはり考え深い表情のままつぶやく。複雑な顔の奥で彼が何を考えているのかわからず、不安だった。同時に、町ですごす最後の日に安西とこんな話をしていることを不思議だとも思う。
 何も言わなくて良いのか?と、どうして安西は何度も同じ質問をしてくるのだろう。まるで何もかも打ち明けることが正しいとでも言わんばかりだ。そんな安西だって、いつもは家族の話などしたがらないくせに。
 かすかな苛立ちを覚えたとき、ジャケットとスラックス姿の安西の兄貴を思い出した。いつも白衣を着ている松本も。学校に不必要な物で満たされた空き教室も。そこで一年をすごした仲間たちの姿も。
 突然、猛烈な寂しさが押し寄せてきて、喉の奥と心臓が同時に痛くなる。
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