光の部屋、花の下で。

四日目

66

　春休み中はずっと三重にいたから、次に響野と会ったのは始業式だった。クラスが別々になったことについて「残念だ」という感想は交わしたものの、響野自身は言うほど深刻そうには見えなかった。俺への態度も普段と変わらず、空き教室の一件などはなかったかのようだ。
　そのことが、かえって俺に不安を抱かせる。結局、響野が提出した調査票にはどこの学校名が書いてあったのだろう。
　カレンダーが五月に向かって進み、神奈川での残り時間が少なくなっても、俺は空き教室に行けないでいた。響野に対しても本心を聞けないままだった。どうしてあんなことをしたんだ？、と。
　クラスが分かれたことで、響野との関係は一年生の頃に逆戻りしたみたいだった。もう授業の合間の五分休みにどうでもいい話題で笑い合うことはなかったし、授業中に当てられて質問に答える彼の姿をながめることもなかった。
　ときどき、校内のどこかで響野を見かけると、自然と目が彼を追いかけた。一年生の頃からのクセだ。当時から変わったのは、そんな自分自身に気付いて、すぐに視線を切り上げるようになったことだった。
　それに、響野のほうでも三回に一回くらいの割合で俺に気付くようになった。目が合うと、軽く片手を上げてこちらに挨拶してくる。二年前とは違う気安さと親密さで。
　その日は、ようやく決意が固まったので、進級してから初めて空き教室に行った。部屋に置きっぱなしのＣＤを回収するためだ。
　もしメンバーがそろっていたら、十枚以上あるＣＤを俺がなぜ一気に持ち帰ろうとするのか、不審に思われるだろう。
　何か聞かれたら引っ越しの件を話そうと思っていた。それから……嘘をついたことを響野にあやまらなくては。