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四日目
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できれば春休み中に引っ越しをすませ、四月から新しい学校に通えるようにしてやりたかった。おやじの職場にしても四月始まりだったから、そのほうが区切りは良いのだ。
もくろみ通りにことが運ばなかった理由は、工場の退職手続きや引っ越し業者の手配といったもろもろの調整がスムーズに行かなかったためだった。どう頑張っても三月中にこちらを引き払うめどが立たず、三重への転居は一か月後のゴールデンウィークまでずれこんだ。
始業式当日、昇降口の大きな掲示板に貼り出された俺のクラス名簿に、響野伸也の名前はなかった。安西康光も、和田将大も、横山太一も。
がっかりしたのか、ホッとしたのかよくわからないまま、一か月限定の神奈川での新学期がはじまった。いよいよ受験生になった事実を皆が感じているせいなのか、三年生の教室が集まるフロアは、今までとは異なるピリッとした緊張感がただよっていた。
この張りつめた空気の中を、空き教室のメンバーたちはどんな気分ですごしているんだろう。
クラスが分かれてからというもの、彼らと接する機会は大幅に減ってしまった。それでも、放課後の空き教室へ行けば、二年生の頃のように思い思いにすごしている四人と会えるはずだったけれど、響野と志望校について話して以来、特別教室棟は足を向けづらい場所になっていた。
あの日、俺の目の前で第一志望を書き換えた彼と、どのようにして別れたか覚えていない。「馬鹿なことはよせ」と、きちんと説得できただろうか? どうも、そういう感じはしなかった。むしろ、こちらを伺うように見上げてきた黒い目と視線がかち合ったとたん、泣きたいような衝動に駆られて教室を飛び出てきてしまった気がする。
もくろみ通りにことが運ばなかった理由は、工場の退職手続きや引っ越し業者の手配といったもろもろの調整がスムーズに行かなかったためだった。どう頑張っても三月中にこちらを引き払うめどが立たず、三重への転居は一か月後のゴールデンウィークまでずれこんだ。
始業式当日、昇降口の大きな掲示板に貼り出された俺のクラス名簿に、響野伸也の名前はなかった。安西康光も、和田将大も、横山太一も。
がっかりしたのか、ホッとしたのかよくわからないまま、一か月限定の神奈川での新学期がはじまった。いよいよ受験生になった事実を皆が感じているせいなのか、三年生の教室が集まるフロアは、今までとは異なるピリッとした緊張感がただよっていた。
この張りつめた空気の中を、空き教室のメンバーたちはどんな気分ですごしているんだろう。
クラスが分かれてからというもの、彼らと接する機会は大幅に減ってしまった。それでも、放課後の空き教室へ行けば、二年生の頃のように思い思いにすごしている四人と会えるはずだったけれど、響野と志望校について話して以来、特別教室棟は足を向けづらい場所になっていた。
あの日、俺の目の前で第一志望を書き換えた彼と、どのようにして別れたか覚えていない。「馬鹿なことはよせ」と、きちんと説得できただろうか? どうも、そういう感じはしなかった。むしろ、こちらを伺うように見上げてきた黒い目と視線がかち合ったとたん、泣きたいような衝動に駆られて教室を飛び出てきてしまった気がする。
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