光の部屋、花の下で。

四日目

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　アパートの部屋に入ると、おやじはまだ帰っておらず、無人の家にはよその家のように夕食のしたくはされていなかった。
　どうして……と、いまだに思う。
　なぜ、自分がこんなふうに、何の価値もない存在のように捨てられなければならなかったのか。
　まだ七歳だった。
　響野の怒りに引きずられたのだろうか、本当に久々に、自分が嵐のような感情に胸をかき乱されているのがわかった。
　何が悪かったのか何度も考えた。それはもう何度も、くり返し。
　そうして最終的に出した結論は、“俺のせいではない”というものだった。
　もしかしたら、俺ひとりで見つけた答えではなく、おやじにしつこく言い含められた言葉だったかもしれない。けれども――とにかく、悪いのは自分ではないと、その言葉を何年も呪文のように唱えて生きてきた。夕暮れの赤黒い空の色と、母親が出てきたアパートの暗い部屋の記憶と一緒に。
「神奈川こっちにいた頃は、三人で暮らしたこともあった。一年半か……二年くらいは」
　耳に届く自分の声は、相変わらず他人がしゃべっているようで、ただ、こちらの気持ちよりもずっと寂しそうに響いた。
　たぶん、もう響野には取り繕えていないだろう。家族がいないことが寂しかった。あの小さなアパートに母親が居続けてくれなかったこと。おやじに新しい家族ができたこと。さんざん苦労をかけた養父の再婚を祝福する気持ちに、誓って嘘や偽りはなかった。人類の中でも優先的に幸せになるべき人間がいるとするなら、おやじはまさにそういう人だ。
　それでも、過去に一瞬だけ存在した、親子三人ですごした記憶が、日暮れのあとの残照のように脳裏に焼き付いている。