光の部屋、花の下で。

三尾

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四日目

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 来月の終わりには神奈川を離れるから、一緒の高校には行けない。
 本当はたった一言、そう言えば良いだけだった。それができなかったのは、友達に自分の話をしないことが当たり前になっていたからだ。自分や家族の、“普通”とは違う部分を知られることが何よりも嫌だった。
 引っ越したあと、俺はいつまで彼らの友達でいられるだろう。そんな恐怖に似た不安も感じていた。空き教室のメンバーとの友情は、同じ学校という特殊な空間だから成立しただけで、毎日顔を合わせなくなれば自然消滅するたぐいのものではないのだろうか。
 少しずつ忘れられていく寂しさを味わうくらいなら、最初から何も告げずに消えたほうが、あと腐れがないように思えた。
 当時はそれなりに悩んでベストな結論を出したつもりだったけれど、今は、ただ臆病で身勝手なだけだったとわかる。自分が傷つくことを怖がるばかりで、他人の気持ちにまで考えを広げられなかった。三重に引っ越す理由や、それに伴う俺のこんがらがった家庭事情を話しても、彼らが変わらずに接してくれるかもしれない、とは信じることができなかった。
 響野に言った“人を頼れ”という言葉は、そのままブーメランのように過去の俺自身に返っていく。人を頼れなかったのは俺も同じだ。
 そんな後悔を口にすると、ローテーブルの向こうからは、「今も頼れていない」と情け容赦のない追い打ちが飛んできた。
「一番頼りたそうにしてる相手に何も言ってないだろう。父親や――……母親に」
 無言で見返した視線の先で、響野が血の気の失せた顔を歪める。彼は腹を立てていた。けれどもその怒りは、俺にではなく、ここにいない俺の両親に向けられているようだった。
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