光の部屋、花の下で。

四日目

57

　でも、叱責混じりの口調で教壇の前へ呼び出されたとき、響野まで一緒に呼ばれるとは想像していなかった。「おまえら進路の重大さがわかってるのか？」と説教を受けるあいだも、そちらのほうが気になって、担任教師ではなく、並んで立つ響野のほうをちらちらと見ていた。
　放課後、響野は俺のところへやってきた。
「〈部屋〉に行かないか？」
　特別教室棟の二階の奥の教室は、めずらしく無人で、期末テストのなごりの勉強スペースがそのまま残っていた。
　向かい合わせにくっつけられた机の上に、響野は自分の鞄から藁半紙を出して置いた。
「何だ、もう書いてあるじゃん」
　第一志望の欄だけ埋まっている響野の進路希望調査票を見て言った。俺の予想通り、そこには県内上位の高校の名前がある。
　自分の調査票を見下ろした彼は、とりあえず書いたけれど、まだ決めかねている、という主旨の説明をした。
「水元はどこにするんだ？」
　俺が言葉につまって考えるふりをするあいだ、響野はじっとこちらを見ていた。
　胸を占拠している温度の高い感情が、少しずつ重苦しさを増していく。これは現在の響野と中学時代の彼のどちらに感じているものだろう？
「可愛いか、妹？」
　ソファに座っている大人の響野は、三重にいるおやじの家族のことを聞いてきた。
「仲良いよ。お継母かあさんは良い人だし、継妹いもうとは人懐こいし、おやじも幸せそうにしてる」
　そうか、と言ってうつむいた顔を見て胸が痛む。
「ごめん。家族の話はもうやめる」
「何でだ？　話せるなら話せよ。中学のとき何も言わなかったんだから」
　こちらが話を切り上げようとすると、恨みがましく反論された。
「あげく、黙って消えたしな」