光の部屋、花の下で。

三尾

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四日目

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 言葉に遅れて小さく頭を下げた相手に戸惑い、つられるようにあいまいな会釈を返す。
 耳にかかった相手の黒い髪の付け根に白髪が何本か固まって生えているのが見えた。急に、この人が響野の母親と同年齢であること、双子の妹とその家族を亡くしたばかりであることが現実として迫ってくる。
 甥をよろしく頼む――そう言われているようだった。
 自分の気持ちを隠したり曲げたりしなさそうな、からっとした人、という俺の読みは今回も間違っていて、やはり他人を理解できると考えること自体がひどく傲慢なのだと思い知る。
「中学生の頃は、どんな友達だったの? 伸也とは」
 困惑して黙っている俺をとりなすように佳子さんはたずねた。響野と同じかたちの黒い目には、ささやかな好奇心が宿っていて、どう答えるべきか迷う。
「仲は良かったと思います。放課後に遊んだり、勉強したり」
 俺の返答を聞いた佳子さんは無言でうなずいた。事実ではあったけれども、答えとしてはひどく表面的で、おそらく彼女が知りたいのはそういうことではないだろう。ただ、中学当時の混沌とした自分の内面をそのまま口にするのもためらわれた。
 響野とは仲が良かった。そして、仲が良いからこそ言えなかったことがたくさんあった。その一部は、昨日ようやく話せたと思う。ばあちゃんの介護のことや、母親が作った借金のこと。響野は驚いた顔で俺の話を聞いて……それから、「言えよ」と抗議した。
「俺は自分の家がゴタついてたのもあって、中学の友達には引っ越しの理由や別れの挨拶を言わないで転校したんです。言っても仕方ないと思って。でも、響野と話すと、当時のことをまだ覚えてて、しかもけっこう怒ってるので、悪いことをしたなって……“仕方ない”ですませたらいけなかったんでしょうね」
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