光の部屋、花の下で。

四日目

45

　俺たちが到着すると、その古くて広い家には、どこからかおやじの親戚筋という人々がわいて出て、おやじの結婚と離婚に対して様々な意見を述べはじめた。おやじは傍目にも不機嫌そうに押し黙っていた。
　会話の内容はどれも難しくて理解できなかったけれど、“ガイジン”や“アイノコ”という言葉と一緒におやじが責められているらしいことは理解した。加勢のつもりで横にくっついていたら、当の本人から「向こうへ行ってろ」と言われた。
　親戚筋の人々は、おやじだけを視界に入れて、彼だけに話しかける。台所や廊下ですれちがっても、彼らや彼女らの視線はきれいに俺を素通りしたので、もしかして自分は透明人間になったのかと、便所の鏡を覗きにいってみたほどだった。
　騒動の中で、義理の祖母に当たる女性の印象はそれほど残っていない。親戚筋の人々の傍若無人さと比べると静かな人だったんだろう。
　ただ、二回目の訪問の終わりぎわに、玄関先で俺たちを見送りながら、「しばらく帰ってこやんでええ」とおやじに言っていたのは覚えていた。
「私はだんないで大丈夫だから、この子を大切にしてあげなぃ」
　しわに囲まれた細い目が、自分の産んだ息子と血のつながらない孫を、ひどく気遣わしげに見た。
　少なくとも、彼女には俺が見えたのだ。


　おやじの急な帰省から三週間と少しが経って、後期の中間テストが来週に迫った。空き教室には再び学習スペースができ上がり、ゆるゆるとした勉強会が開かれている。
　集団の中に勉強のできる人間が一定数混じると、テスト前の自主学習は当たり前のものになるらしい。ぶつくさ言いながらも真面目に教科書とドリルを広げている安西を見て、一年生の頃には想像もしなかった光景に感慨を覚えた。