154 / 377
四日目
41
しおりを挟む
対する俺は、来月から職探しの身分だった。連絡を入れたのは、世話になった人々に退職の挨拶をしようと思ったからで、それ以上の深い考えはなかったはずだけれど、彼女が作ろうとしている施設の話を聞くうちに、退職にいたるまでの出来事をあれこれと思い出して胸がうずいた。
「もうじき無職なんで、人手が足りなさそうなら雇ってください」
本気と冗談が半々くらいの不真面目な言い方になってしまったのは、たぶん、自分が退職で傷ついていることを認めたくなかったからだ。今思い返しても恥ずかしくなるほど中途半端な希望の出し方だった。
案の定、その言葉は先輩にも真剣に受け取られることはなく、諭すような消極的な返事がきたのみだった。「気持ちは嬉しいけれど」と。
「……介護士の先輩って、あのメールの女性か?」
俺と片桐さんとの会話を聞いていたのか響野がたずねる。
「そう、由香里先輩」
施設の開所準備で忙しいはずの彼女に遠慮して、こちらからはなるべく連絡を入れないようにしている。ただ、「目の不自由なお友達はその後どうですか?」とメールをもらい、響野の視力の回復状況を伝えたり追加の留意事項を送ってもらったりと文字でのやりとりは続いていた。
「響野のお礼も伝えておいたよ。“お役に立てて嬉しい”ってさ」
彼に頼まれていたことを思い出して報告する。てっきりそれを気にして話しかけてきたのだと思ったけれど、それを聞いた響野は複雑な顔をした。
「名前呼びなのか」
「え?」
聞き返すと、彼は「何でもない」と再びそっぽを向く。
何か気まずいらしい。
中学時代と変わらず、とてもごまかし方が下手な相手を見つつ、何だよ?とまた首をかしげた。
* * * * *
「もうじき無職なんで、人手が足りなさそうなら雇ってください」
本気と冗談が半々くらいの不真面目な言い方になってしまったのは、たぶん、自分が退職で傷ついていることを認めたくなかったからだ。今思い返しても恥ずかしくなるほど中途半端な希望の出し方だった。
案の定、その言葉は先輩にも真剣に受け取られることはなく、諭すような消極的な返事がきたのみだった。「気持ちは嬉しいけれど」と。
「……介護士の先輩って、あのメールの女性か?」
俺と片桐さんとの会話を聞いていたのか響野がたずねる。
「そう、由香里先輩」
施設の開所準備で忙しいはずの彼女に遠慮して、こちらからはなるべく連絡を入れないようにしている。ただ、「目の不自由なお友達はその後どうですか?」とメールをもらい、響野の視力の回復状況を伝えたり追加の留意事項を送ってもらったりと文字でのやりとりは続いていた。
「響野のお礼も伝えておいたよ。“お役に立てて嬉しい”ってさ」
彼に頼まれていたことを思い出して報告する。てっきりそれを気にして話しかけてきたのだと思ったけれど、それを聞いた響野は複雑な顔をした。
「名前呼びなのか」
「え?」
聞き返すと、彼は「何でもない」と再びそっぽを向く。
何か気まずいらしい。
中学時代と変わらず、とてもごまかし方が下手な相手を見つつ、何だよ?とまた首をかしげた。
* * * * *
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
冴えないおじさんが雌になっちゃうお話。
丸井まー(旧:まー)
BL
馴染みの居酒屋で冴えないおじさんが雌オチしちゃうお話。
イケメン青年×オッサン。
リクエストをくださった棗様に捧げます!
【リクエスト】冴えないおじさんリーマンの雌オチ。
楽しいリクエストをありがとうございました!
※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない
すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。
実の親子による禁断の関係です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる